歯医者さんの一服
歯医者さんの一服日記

2008年09月18日(木) 親子患者漫才?

先日のことでした。ある患者さんの治療をしていると待合室からなにやら賑やかな声が聴こえてきました。何を言っているのかはわかりませんでしたが、普段静かな待合室が突然ふって沸いたかのような賑やかさ。時に豪快な笑いに満ち溢れた雰囲気に僕は驚きを感じざるをえませんでした。

“一体誰がいるんだろう?”

その正体は直ぐにわかりました。治療をしていた患者さんが治療を終え、診療室を退出するや否や別の患者さんが入ってきました。正確には二人連れ。ある高齢の患者さんとその付き添い方の二人連れでした。
治療に来られたのは高齢の患者さんの方でした。付き添いの方はこの高齢の患者さんの子供さんだったのです。子供といっても既に中年を過ぎている方ではありました。高齢の患者さんは杖を持ちながらの歩行。自分で歩行することは可能なのですが、ふらつきながら歩くということで子供さんの方が付き添っているという感じでした。

僕は早速高齢の患者さんに問診をしました。高齢の患者さんはしっかりと受け応えをされました。自分の入れ歯が割れてしまったので修理と新しい入れ歯を作って欲しいという希望だったのです。
「先生、新しい入れ歯を作って下さいな。」

高齢の患者さんがこのようなことを言うや否や子供さんの方が

「あんた、これ以上ええ入れ歯作ってどないするんや。美味しいものばっかり食べたら余計に太るで。今の入れ歯の方がダイエットになるんちゃうの。」

このように書くと何やらものすごい剣幕で言っているように思われますが、端から見ていた僕は思わず笑ってしまいました。なぜなら、この言葉のやり取りの雰囲気が何か漫才をしているようにしか見えなかったからです。

「そんなこと言ってもやな、いくら年食っても美味しいものは美味しいんだからなあ。」

僕は尋ねました。

「失礼ですがお年はおいくつですか?」

「93歳です。」
高齢の患者さんが言うや否や子供さんが直ぐに切り返します。
「もう直ぐ死にます。」
「あんた、まだわしはこの世の中に執着しているんやからもう少しだけ生きさせてや。」
「あんたの面倒はもう充分見た。後は勝手に死んでや。」
「いや死なん。そのためにも、先生、新しい入れ歯作って下さいな。」
「新しい入れ歯作って、もうしばらくあんたの顔を毎日見なあかんと思うと、気が遠くなりそうや。」
「どんどん気が遠くなってや。」
「やかまし!」

万事このような感じで治療中、話し続けた患者さん親子。お互い言いことを言い合っているようで、けんかになりそうなのですが、全く嫌味のない、後にすっきりとした感じがする会話でした。おそらく、この親子、一日中、ずっと漫才のような会話を続けているのでしょう。端からみていると笑いを堪えるのに必死です。

周囲の反応を意識しているかどうかはわかりませんが、お互い言いたいことを言い合いながらも全くストレスを感じていない様子。何ともうらやましい親子連れだと感じた、歯医者そうさんでした。


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