2008年09月03日(水) |
口の中が物語る家庭不和の一例 |
歯医者は患者さんが訴える主訴に基づいて歯や口の中の異常を診査、診断し、治療を行います。歯医者の仕事としては当たり前のことではあるのですが、視点を患者さん側に移してみると、歯や口の中の異常は、ほとんどの場合、直ぐに現れたわけではありません。何らかの原因が長期間かけて蓄積し、ある瞬間に症状として現れるものなのです。歯医者がいくら歯や口の中の悪い場所を治療したとしても、これはあくまで対症療法であって、原因治療ではありません。この点、患者さんには重々説明をしてはいるのですが、僕の説明にピンとくる患者さんはまだまだ限られているのが現状です。
歯や口の中の異常ですが、どんな背景があって起こったのでしょう?いろいろな背景があると思われます。例えば、患者さんの全身状態を着目しますと、年齢や性別、性格、体調、体格、遺伝的なことなどが影響すると思われます。口の中の状況をみますと、歯並びや噛み合わせ、むし歯原因菌、歯周病原因菌の数、唾液の性状、量、口呼吸、歯軋り、王と反射などの影響があることでしょう。 それにもまして影響を与えると思われるのが生活環境です。患者さんの労働環境を例に挙げますと、室内での仕事か室外での仕事か?会社員、公務員、自営業なのか?正社員、それとも派遣社員、パート職?単純作業なのかそれとも様々な仕事を掛け持ちしているのか?営業職なのか管理職なのか等々、患者さんの置かれている労働環境を考えるだけでも様々な環境があるはずで、これらが健康に与える影響は計り知れません。 患者さんのライフスタイルもそうです。愛煙家なのか禁煙か?飲酒習慣、間食習慣、といった食習慣が口の中に与える影響はかなりのものです。
このように考えると、たかが患者さんの口の中、歯の問題だとは言っても、これを左右することは山ほどあることが言えると思います。歯医者がいくら口の中、歯のことをすっぱく言っても、患者さん自身を取りまく環境をある程度知らないと、馬の耳に念仏状態になりかねないのです。
先日経験したことです。 ある男性患者さんがいました。この方、もともと歯磨きをあまりしない方で何度も歯磨指導を行ったのですが、うまくいきませんでした。 数年前のことでした。久しぶりに受診したこの患者さんの口の中を診て、僕は驚きました。それは、口の中が非常にきれいになっていたのです。かつて、何度も手を変え、品を変え説明しても一向に改善しなかった口の中の状態が劇的に改善していたのです。歯医者としては非常に歓迎すべきことだったのですが、その一方で疑問も残りました。どうして彼は歯を丁寧に磨きだしたのか?後日、この患者さんの関係者と話をする機会があり、理由がはっきりとわかりました。それは、この患者さんは彼女ができ、結婚間近だったということでした。歯や口の中のことに無頓着だった患者ではありましたが、彼女ができると今まで無関心だった歯や口の中も清潔にするものなのか?色恋ごとは歯磨き習慣にも影響を与えるものなのだなあと感心しておりました。
以後、うちの歯科医院に来院しなかったこの患者さんですが、最近、歯の不調を訴え、久しぶりに来院しました。久しぶりに診た彼の口の中は、悲惨な状態となっていました。いくつもむし歯ができ、歯には歯垢が多く付着していたのです。歯磨きを怠っているのは明らかでした。僕は歯の治療をしながら、歯磨きの大切さを訴えたのですが、本人の反応は非常に鈍いものがありました。何かあったのか?そんな疑問を持っていた最中、僕はある知人からこの患者さんのことを再び耳にしました。それは、この患者さんが奥さんと別居しているという知らせだったのです。既に別居をして1年経過し、離婚が秒読みに入っているということだったのです。ことの真相ははっきりとしませんが、かつて彼女ができ、結婚間近に劇的に改善した口の中の状態を考えれば、この話、あながちうそではない、むしろ真相に近いのではないかと感じた次第です。
生活環境が体の健康、口の中の状態に影響を与える一例でした。
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