歯医者さんの一服
歯医者さんの一服日記

2008年06月19日(木) ある歯医者を襲った突然の悪夢

今朝、眼を覚ますと時計の針は5時を過ぎたところでした。

“いつもの起床時間まではまだまだだなあ”
と思いながら何気なく舌で上の前歯の裏側を触った僕は、ある違和感を覚えました。

!アレっ!こんなところに穴が開いている!!

昨日まで何もなかったはずの上の前歯です。昨夜も鏡を見ながら念入りに歯を磨いていたつもりでした。何も問題がなかったはずなのです。歯医者である僕が自分の歯を確認して何もなかったはずなのに、起きてみたら穴が開いている!

このような場合、原因の多くはむし歯であることが多いのですが、自分が気がつかないうちにむし歯に侵されていたことが信じられませんでした。驚いた僕は、自宅の隣にある診療所まで足を運び、歯科用ミラーを使って前歯を確認してみました。すると、歯科用ミラーには大きな黒色のむし歯が見えたのです。

どうして?たった一日でむし歯になるなんてことがあるのか?

歯医者でありながら何という失態でしょう。いくら歯医者でも自分の歯に異常が生じた場合、自分で治療をすることは困難を伴います。少なくとも僕は自分の歯の治療は自分ではできません。

これは親父に診てもらうしかない。

そう思った僕は、応急的にむし歯の部分に仮封用のセメントを練り、詰めたのです。その際、何気なく噛むと、突然“ボリッ”という音が。

一体何だろう?

そう思った瞬間、僕は口の中に硬い物があることに気がつきました。口の中から出てきたものは下の奥歯でした。下の奥歯の頭の部分である歯冠だったのです。歯科用ミラーで確認してみると右下の奥歯が欠け、根っこがむき出しになっているのが見えました。根っこの周囲は黒くなっていました。明らかにむし歯が原因で欠けているのがわかりました。この歯も昨晩の歯磨き時には何も異常が見られなかった歯だったのです。

まさか?

そんなことを感じた瞬間、突然、痛みが生じてきました。無理もありません。歯冠が欠けて歯の神経が露出していましたから、痛みが出るのは当然でした。

これはたまらん!

次々と起こる口の中の異常に僕は明らかに動揺していました。そして、思わず寝室で寝ていた親父を叩き起こしました。

「歯が痛くてたまらん、何とかしてくれないか!」

眠そうな表情もしながらも、僕の尋常ではない姿に驚いた親父は直ちに診療室へ向かい、僕を診療台へ座らせました。
久しぶりに横になる診療台。普段は患者さんを上から覗き込みながら診療する立場である僕ですが、今は僕が患者となり親父の診療を受ける立場。歯の治療を受ける患者さんの不安感とはこんなものだったのか?と感じながら、親父の診察を受けていると、親父は突然僕に宣告しました。

「こんなに悪くなるまでどうして放置していたんだ!」

僕は親父の言っている意味がわかりませんでした。2本の歯が悪いだけだろうと思っていた僕に親父は

「口の中の全ての歯がむし歯になり、今にも欠けそうだぞ!」

僕は親父の持っていた歯科用ミラーで自分の口の中を確認しました。そのミラーにはつい先ほどまで大丈夫だと思っていた歯に全て黒い穴が開き、今にも欠けようとしていた光景が写っていたのです。

こんなはずでは!昨夜まで全く問題が無く、ついさっきは2本の歯だけ問題が生じていたはずだったのに、どうして短時間でこんなにひどくなっているんだ!

僕は自分の身に起きたことが全く理解できませんでした。動揺している僕を尻目に親父は

「今から全部の歯を抜歯して、総義歯にしなければ!」

親父の発した言葉に僕はパニック状態となってしまいました。どうして一眠りしただけで健康な歯を全部抜歯して総義歯になるんだ?俺は何か悪いことをしたのか?今まで患者さんの歯を抜歯し続けた天罰なのか?止めてくれ!誰か助けてくれ〜・・・・・・!


気がつくと、僕は寝室の天井を見ていました。

一体これはどうしたことだ?

自分の舌で上の前歯を触ってみました。何も異常はありません。起き上がった僕は洗面所の鏡で奥歯を確かめてみましたが、何も変わったことはありません。

時計の針は5時半を回ったところでした。
もう少し寝よう。自分の歯が何の異常も無かったことを確認した僕はもう一眠りするために寝床に戻ったのでした。



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