歯医者さんの一服
歯医者さんの一服日記

2008年05月07日(水) 知人を講義する気持ち

ゴールデンウィークが終わりました。今日から仕事再開という方が多いのではないでしょうか?僕もそんな輩の一人です。ただし、仕事といっても診療は休診です。今日は某専門学校での講義日で、僕にとってゴールデンウィーク明けの初仕事は講義ということになります。

4月から始まった某専門学校での講義ですが、毎年、講義が始まる前、僕は講義を受ける学生の名簿を一通り見るようにしています。名簿を見ただけではどんな学生なのかはわかりませんが、僕は頭の悪い人間です。いきなり顔を見て名前を覚えられるような器用な真似はできません。何回も何回も顔と名前を一致させるようにしながら学生の名前を覚えていくのが常です。一度名簿を見ただけで全ての学生の名前を覚えることはできませんが、少しでも記憶の断片に残る名前があればそれを頼りに実際の学生たちの顔を見て名前を覚えていく。そんなことをしています。

そんな某専門学校の学生名簿を見ていると、僕はある学生の名前に目が留まりました。それは僕の知人の名前と全く同じ、同姓同名だったのです。
“それにしてもそっくりな名前があるものだなあ”と思いつつも、“もしかして?”という思いも捨て切れませんでした。
いざ講義室に足を運んでみると、僕は思わず目を丸くしてしまいました。なぜなら、その学生は僕の知人、Hさんだったからです。Hさんは教室の一番前の列に陣取っていたのです。

「どうしてこの学校で学生になっているんだ?」
と思わず言いたくも他の学生がいる手前、言えません。正直言って、恥ずかしかったところがありました。Hさんも顔を下に向けながら思わず苦笑いしている姿が見えました。

後日、僕はHさんに会う機会があり、ことの次第を尋ねてみました。もともとHさんは、某医療機関で助手として働いていたのですが、働いているうちに専門職として仕事をしてみたいという気持ちが強くなってきたのだとか。ただ、専門職の資格を取るには専門学校に通学しないといけないため、どうするべきか悩んでいたそうです。悩んだ挙句出した結論として、Hさんは某専門学校の入学試験を受けることだったのだそうで、Hさんは某専門学校の入学試験に見事合格し、この4月から晴れて学生として通学しだしたそうです。

正直言って、僕はHさんがよくぞ決断を下し、実行したなあと感じました。おそらく様々な精神的葛藤があったはずです。家族との間でも何度も話をしたことでしょう。年齢的なことも頭をよぎったことでしょう。既に某医療機関に勤めて何年も経過していた中、再度学生になることを決め、授業料を払いながらも資格を取るために講義や実習を受ける身となったのです。なかなかできることではありません。

Hさんにとっての久しぶりの学生生活。かつて授業を受けていた身とはいえ、既に社会人となり仕事をこなしていた生活からの変化です。一日中、講義を聴くために机の前に座ったり、他の若い学生と共に実習を受けることは、並大抵のことではないでしょう。そのことは賢明なHさんなら最初からわかっていたはず。わかっていながら敢えて学生生活に戻る決意をし、実行したのは余程目的意識が強くあったに違いありません。専門資格を取り、専門家として医療の第一線で働きたい。そんなHさんの心意気を僕は称えたいと思います。

そんなHさんが専門職を取ろうとしている専門科目の講義を僕が担当する。なんという巡り会わせなのだろうか?と思わざるをえません。
僕はこれまで決して講義に対して手を抜くようなことはしたことはありません。自分なりに講義の準備をし、講義をしてきたつもりですが、大げさかもしれませんが、僕の講義が知人であるHさんの一生の一部を僕が左右するかもしれないのです。この点、かなりの精神的にプレッシャーを感じるのです。
その反面、近い将来、Hさんが医療の専門家として仕事をするための手伝いができることに僕は大いなる喜びを感じます。Hさんがどのような医療の専門家を目指しているかはわかりませんが、短時間とはいえ、一つの科目のこととはいえ、Hさんが医療専門職の資格を得る過程に僕の講義があるのはまぎれもない事実です。少しでもHさんが僕の講義から得るものがあり、今後の活躍に役立てられるなら、非常に光栄です。

これからのHさんの健闘を心から祈りたいと思います。頑張れ、Hさん!


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