歯医者さんの一服
歯医者さんの一服日記

2008年05月03日(土) 土佐礼子の歯の矯正治療は本当に終わったのか?

昨日、ネットサーフィンをしていると、このようなニュースが取り上げられていました。

北京五輪女子マラソン代表の土佐礼子選手が3年間に及ぶ歯の矯正治療を終えたというのです。今から3年前の2005年春から、夫の村井啓一さんに歯の矯正を勧められ、当時、足を疲労骨折して練習ができなくなったこともあり「今だ!」と治療を決断したそうで、以来、月イチで通院治療を受けていたとのこと。当初2年で終える治療が3年かかったそうなのですが、北京五輪の約100日前に歯の矯正治療を終えたというのです。

このニュースには土佐選手の歯に装着されていた矯正装置が取られ、すっきりとした口元、きれいな歯並びを得てにっこりとされている土佐選手の顔写真が載っていました。アスリートの歯並びと姿勢の関係、歯並びとアスリートの能力の関係はいろいろと議論があるところです。個人的には、アスリートが力を出す際、必ずといっていいほど歯を噛み合わしますので、歯並びが良く、噛み合わせが良い方が力を発揮しやすいように思えます。実際に、マラソン女子日本代表で金メダルを獲得した高橋尚子選手や野口みずき選手は二人とも歯並びがよかったのです。今回の北京五輪オリンピック代表の一人として土佐選手も選ばれていますが、是非ともきれいな歯並び、かみ合わせを維持し、自信の能力を最大限に発揮し、北京五輪でメダルを獲得して欲しいと思います。

ところで、このニュースで歯医者として感じた疑問があります。それは、土佐選手が本当に矯正治療を終えたのか?という疑問です。見た目には歯に装着されていた矯正装置がはずされすっきりとした口元になっていました。歯の移動も終わり、歯並びが整い、噛み合わせも改善されているように思います。

ところが、歯の治療の専門家として歯の矯正治療のことを考えると、歯並びがきれいに整っただけでは矯正治療が終了したとは考えられないのです。なぜなら、歯の矯正治療には最後の重要なステップがあるからです。そのステップとは専門的に保定(ほてい)と呼ばれるステップです。

時間をかけて歯を移動させ歯並びを整えた後、移動させた位置で歯を安定させることが必要です。このことを専門的に保定といいます。いくら時間をかけて移動させた歯であっても、矯正治療して動かした歯は不安定なのです。時として動揺したり、後戻りといってせっかく動かした歯同士に隙間が生じたり、歯並びが乱れたりすることがあるのです。そのため、矯正治療医は、歯の移動が完了した後、必ず保定を行います。具体的には、取り外し式の入れ歯のような装置やシリコン製やプラスチック製のマウスピースのようなものを装着したり、歯の裏側に針金のような金属線で歯同士を連結させるようなことをします。

矯正治療をした歯がどうして不安定なのか、科学的には解明されていないのが現状です。中には保定しなくても、全く問題の無いケースもあるのですが、せっかく時間をかけて動かした歯が再び動き、整った歯並び、かみ合わせを乱すようなことがあれば何のために歯の矯正治療を受けたのか意味がありません。そのため、矯正治療で動かした歯は必ず保定が必要になってきます。

具体的な保定治療期間はケースバイケースですが、矯正専門医によれば概ね2年〜3年が平均のようです。このことを考えると、土佐選手の歯の矯正治療が終了したとは思えないのです。見た目は歯の矯正装置が取り外され、きれいな歯並び、噛み合わせが得られている土佐選手ですが、実際は人目の見えないところでは、保定治療を続けていると考えた方が良いのではないかと思うのです。


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