歯医者さんの一服
歯医者さんの一服日記

2008年02月29日(金) 親父の引退

これまで何回も書いてきたことですが、僕は歯医者の2代目です。初代は親父で今年喜寿になったのですが、歯医者として患者さんの治療に当たっています。昨年、大病をして以来、仕事のペースはかなり落としているのですが、それでも体に無理のかからない程度で仕事をしています。

そんな親父が、昨日、なじみの患者さんに対し何気なく言ったことが耳に残りました。

「80歳になったら歯医者を引退しようと思うんですわ。」

僕自身、親父が自らの引き際、仕事を引退することを口にしたことを耳にしたのはこれが初めてでした。これまで家で親父と話をしていても、自らの引退については何も言いませんでした。お袋に尋ねても、“好きなようにやらせているよ”とのこと。

病院や大学に勤務している歯医者は定年がありますが、開業歯科医には定年はありません。全国に10万人近くいる歯医者の大半は開業歯科医ですから、歯医者の大半は自らの引き際を自らが判断すると言っても過言ではないでしょう。それではいつ引退するか?歯医者によって様々ですが、概ね引退せずに体力が続く限り診療をしている歯医者が大半ではないかと思います。周囲を見渡してみると、70歳を越えても診療をしている先輩の先生は数多くいます。むしろ、余力を残して歯医者稼業からすっかりと足を洗う歯医者の方が少ないように思います。
この理由は定かではありませんが、愚考するに、長年歯医者稼業をしていると、明日から歯医者をしない生活というのが想像できない。診療を全くしないことに対して一種の不安、恐怖感があり、歯医者稼業を捨てることができない歯医者が多いのではないか?と思うのです。しかも、歯医者の大半は開業歯科医ですから、一種の自営業者です。自らの引退を自らが決めざるをえないこともあり、年齢を重ねても惰性で歯医者を続けている人が多いのではないかと思います。

実際のところ、歯医者という仕事は恵まれているところがあります。歯医者は自らの診療所から動くことはありません。これは診療する体制の都合ではあるのですが、結果として患者さん自らが診療所へ足を運ぶこととなります。自ら動かず患者さんが来院するのを待っているのです。
また、歯医者は年中、一定の環境の中で仕事をしています。外が寒ければ暖房の効いた室内で、外が暑ければ冷房の効いた室内で仕事をします。恵まれた環境で仕事をし続けることができるのです。体力面から考えれば、歯医者は体力を消耗することなく仕事をし続けることができるのです。
歯医者は絶えず手を動かす仕事です。患者さんの口の中を見て瞬時に診断し、治療方針を立て、仕事をする。頭を動かし、手を動かすことは、適度な刺激を脳に与え続けることにもなる。脳に絶えず刺激がいけば、フィードバック効果でいつまでも手が動くのではないかと思うのです。このことも歯医者がなかなか引退しない理由にあるのではないかと思います。

話をもとに戻して親父ですが、80歳定年を自ら宣言したようですが、個人的には親父の考えを尊重しようとは思います。しかしながら、これといった趣味も無く、歯医者をしていないと暇を持て余しているような親父を端から見ていると、患者さんに迷惑がかからない限り、体力が続けば歯医者をしていてもいいのではないかと思います。
勝手な想像ですが、親父は歯医者を引退すると直ぐにボケそうな気がしてなりません。それも人生ではありますが、同じ一生であれば少しでも生き生きとした人生を過ごして欲しい。そのためには、人生の大半を過ごしてきた歯医者という仕事を出来る限り長くしても罰は当たらないのではないか?息子である僕はそのように感じるのですが、これは息子の勝手、わがままなのでしょうか?


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