2008年02月25日(月) |
間近に迫った歯医者の危機とは? |
先週末、地元歯科医師会主催の講演会がありました。講師には歯科界で著名な先生を招いたのですが、僕は地元歯科医師会のホスト役として著名な先生と長時間にわたり話をする機会に恵まれました。日頃の地元歯科医師会の仕事は地味で診療の合間に仕事をすることはそれなりにストレスがあるものですが、今回に限っては一種の役得のようなもので、日頃聞けない話や示唆に富む話をすることができ、非常に有意義な時間を過ごすことができました。
この著名な先生との話の中で印象的だった話がいくつかあったのですが、その一つが目の先に迫った歯科業界の危機についてでした。その危機とは歯科技工士の不足でした。
「東京方面では歯科技工士の6割近くが団塊の世代なのですよ。すなわち、50歳後半から60歳代なのですね。これは大きな問題なのですよ。あと10年もすれば、これら世代の歯科技工士は多くが一線を退くことになります。ところが、歯科技工士は若い人が少ない。歯科技工士の高齢化が叫ばれていたのですが、これに対し歯科医師会も厚生労働省も何ら方策を出していない。その結果、今後10年の間に歯科界、歯科医師の間では歯科技工士が一気に減少します。ところが、歯科医師はとなると一時ほどではありませんが、まだまだ歯科医師が増え、10万人を越えるのは確実。今や歯科医院の数はコンビニの数の1.4倍とも1.5倍とも言われています。歯科医師が増えているにも関わらず、歯科技工士数が足りない。これは今後、歯科業界において一種のパニック状態になる可能性があります。これまでは歯科医師が歯科技工士を選んできた時代でしたが、これからは歯科技工士が歯科医師を選ぶ時代がやってきます。」
この話、決して誇張した話ではありません。こちらにそのことを示したデータがあります。 厚生労働省がまとめた平成18年度保健・衛生行政業務報告によれば、就業歯科技工士数は35147人です。年齢別では50歳以上が全体に30%であり、45歳〜49歳が全体の16.6%です。この二つだけでほぼ全体の50%を占めているのです。それに比べ若い世代はといいますと、25歳未満が6.9%、25歳〜29歳までが9.4%となっています。如何に歯科技工士の高齢化が進んでいるということがわかると思います。
どうしてこのようなことが起こっているのか?理由はいくつかあると思いますが、最も考えられるのは歯科技工士という仕事に就こうとしている若い世代の人が少ないこと。若い世代の人たちにとって歯科技工士の仕事が魅力あるものとはなっていないことです。 全国各地では歯科技工士学校の廃校が相次いでいます。僕が仕事をしている県においてもとうとう歯科技工士学校はたった1校になってしまいました。この1校も募集しても学生を集めるのに一苦労で、学校経営は大幅な赤字になっているのだとか。 単に歯科医師の仕事の下請けだけではなく、もっと歯科技工士に治療に参加できる機会を作るべきなのです。かつて歯科技工に関して歯科技工士に活躍を与えるような話がいろいろとあったようなのですが、この話に消極的だったのは歯科医師だったと聞きます。
今の歯科技工というものは非常に歯医者が一朝一夕で行えるような代物ではありません。歯医者はいろいろと指示を出すことはできますが、実際に患者さんの歯にせっとする被せ歯、差し歯、入れ歯を作ろうとしても、歯科技工士が持つ高度な技術力に頼らなければいけないようになっているくらい、繊細なものになっているのです。この実態を歯医者はわかっているようで、実際はわかっていない人が多いのは悲しいことです。どうしても上から目線で命令するかのごとく歯科技工士に相対している歯医者がいるのは如何なものでしょうか。こうした仕事の環境が悪影響を与え続け、若い世代の歯科技工士を中心に途中でドロップアウトしてしまう歯科技工士が増え、結果として歯科技工士の高齢化が進んでしまったところがあります。
今、看護業界では看護師不足を外国人労働者で補おうとする動きが活発になっているようですが、今後歯科業界においても歯科技工士不足を技術力を持った外国人や海外に委託するようなことが起こってくる可能性は高いと思います。それは仕方がないことなのかもしれませんが、日本に住んでいる人の健康を日本で住んでいる人たちが救えなくてどうするのか?自分の国の人たちの健康は自分の国の人たちで守る。これができなくなっている今の現状を僕は憂います。
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