歯医者さんの一服
歯医者さんの一服日記

2008年02月21日(木) 麻酔科医に3500万円支払うことについて

昨日目にしたこのニュース、正直言って驚きました。

関西空港の対岸にある大阪府泉佐野市の市立泉佐野病院で、激務などを理由に麻酔科の常勤医が一斉退職する見通しとなり、後任の医師を確保するため、病院側が最高で年3500万円の報酬を雇用条件に提示していることがわかったとのこと。麻酔科医が不在になれば、救急対応を含む大半の手術ができなくなることから、拠点病院としての機能低下を防ぐ窮余の一策としているそうです。

同病院の麻酔科には現在、4人の常勤医師がいるが、いずれも3月末で辞職する可能性が高い。一部の医師が昨年末に辞職を願い出たのを機に、残る医師も「補充なしで手術室を支えられない」と退職を決めたという。

年収3500万円は病院事業管理者(特別職)の約2倍。厚生労働省の調査(昨年6月時点)では、自治体病院勤務医の平均年収は1427万円で、これと比べても突出している。同病院は所属先のない「フリー」の麻酔科医に1日約12万円の報酬を支払っているといい、この水準をもとに年収をはじき出した。今月1日から大学などに要請する形で募集を始めたところ、これまでに数件の引き合いがあるという。

 同病院は全国に3カ所しかない「特定感染症指定医療機関」の一つ。今夏をめどに、産科医療の中核施設「地域周産期母子医療センター」となる予定で、緊急手術に即応できる常勤麻酔科医の確保が急務だった。市幹部は「ほかの医師の給与に比べて高すぎる、との指摘が内部にあったが、手術ができない事態は避けねばならない」と話す。

この記事を読んで僕は複雑な気持ちがしました。
僕自身、総合病院に勤務したことがあるのですが、その時の経験でも、手術の際、常勤の麻酔科医の存在は手術には欠かせない存在です。手術を安心して行うためには、専門の知識とトレーニングを積んだ専任の麻酔科医がいないと安心して手術ができません。手術において執刀医のような表舞台には立ちませんが、患者さんの術中管理は麻酔科医によって行われるのです。いわば影の主役とも言っていい存在です。脳神経外科、胸部外科、消化器外科、泌尿器科、整形外科、整形外科、形成外科、産婦人科、そして口腔外科にいたるまで全身麻酔、場合によっては局所麻酔でも関係しますが、は麻酔科医によってすべて取り仕切られるものです。
常勤の麻酔科医がいなくなるということは、病院で手術ができなくなることを意味し、病院の機能が外来だけになってしまうのです。

現在、全国的に医師不足が言われていますが、中でも麻酔科医の不足は顕著で、どの病院も如何に麻酔科医を確保することが大きな課題になっていることは確かです。
今回の市立泉佐野病院でも全ての麻酔科医が退職するということで、市の方では年額3500万円という給与を用意してでも何とか麻酔科医を確保しようと苦肉の策を打ち出しています。おそらく市や市立病院では相当の議論があったはずです。その上での結論だとは思うのですが、僕は果たしてこの選択が正しい選択なのだろうかと疑問に感じざるをえません。

その一つは、麻酔科医は1人では何もできないのです。今回の市立泉佐野病院では4人の麻酔科医がいたそうですが、市立の総合病院としてはこの体制でもかなりきつかったのではないかと思います。精一杯働いて何とか手術が行われてきたというのが現状だと思うのです。1人でも麻酔科医が欠ければそれは他の麻酔科医への負担が増し、耐え切れない。それ故、全員退職ということになったのでしょう。
1人年額3500万円の給与を用意するそうですが、募集は3人とのこと。ということは、泉佐野市は、年額1億5百万円を用意しなければいけないということになります。麻酔科医という特別職ではあるものの、たった3人を雇うために1億円以上の人件費を掛ける。しかも、病院は泉佐野市立という公立病院です。市民の税金が投入されている病院です。1人年額3500万円の給与が一般市民に理解されるでしょうか?

他のマスコミ報道によると、今回の麻酔科医の募集は3人だけの募集ということですが、これまでの4人体制でも仕事はかなりきつかったはずです。病院の規模から考えれば、最低数人の麻酔科医は確保する必要だったと思います。今回、麻酔医が大挙して辞めることになった理由の一つは、残された麻酔科医だけでは耐え切れないと判断したとのこと。本来なら、4人以上を募集するべきなのにそれが3人とうのも腑に落ちません。麻酔科医が少ない、市の予算が限られているという理由はあるでしょうが、いくら高額の給与を支払うことを条件にしても、3人の麻酔科医だけで病院の機能が維持できるかと言われれば、非常に疑問です。

また、病院内の他科の医師の士気にも大きく影響するでしょう。どうして麻酔科医だけに多額の給与を支払うのだ。という声が上がっても不思議ではありません。病院は麻酔科医が無くては機能しないとは書きましたが、しかしながら、他科の医師もいなくては機能しません。元来、市立総合病院の医師は、特別職としてそれぞれのキャリアに合せて給与が支払われているのです。同じようなキャリアであれば、給与は同等のはず。それが、麻酔科医だけが特別の給与を支払われ、雇われるとなると、いくら医師とは言っても感情的に良いことはありません。むしろ、ねたみ、嫉妬が生じ、そのことが病院の機能に影響し、場合によっては取り返しのつかないトラブル、事故になる可能性さえあるのです。
果たしてそれで良いのでしょうか?それであれば、退職しようとしている麻酔科医に更なる追加給与を支払っている方がまだ院内の医師からは同情が得られるというものです。

それでは何か良い解決方法はあるのかと問われれば、僕の悪い頭では良い案が浮かびません。医師不足、特に麻酔科医不足というのは昨日、今日の問題ではなくここ10年来、いやそれ以上の長期にわたる問題であったからです。問題を先送りしてきた結果が今あるのです。


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