2008年02月15日(金) |
敢えて治療回数を言わない場合とは? |
患者さんに治療について説明をしている際、質問を受けることに
「治療回数はどれくらいかかりますか?」 というものがあります。
歯科治療について情報を持たない患者さんにとって、治療に要する回数は是非とも知っておきたいことの一つではあるでしょう。 僕は多くの患者さんには正確ではないと断りながらも、大体の治療回数を言うことにしています。その際、治療には予想もしないことが起こる可能性があるので、治療回数の通り治療が終わるわけではないことを十二分に説明します。
ただし、特定の患者さんには敢えて治療に要する回数を説明しないことがあります。どんな患者さんが対象かといいますと、あまりにも治療場所が多い患者さんです。 多くの歯が悪いにも関わらず、我慢をしたり放置したりしてきたものの、我慢の限界を越え来院した患者さんが少なからずいます。歯医者から見て、一体どこから手をつけたらいいのだろうか?思いたくなるほどの悲惨な口の中、歯を多数持っている患者さんがいるのです。 僕の経験では、口の中に問題箇所が多い患者さんの方が治療に要する回数を確認する場合が多いように思います。これに対し、治療を要する歯が少ない患者さんの方が治療に要する回数を尋ねない人が少ないように思います。 どうしてこのような違いがあるのでしょう?僕ははっきりと理由はわかりませんが、治療箇所が多い人の方が治療費用のことが気になったり、治療のために予定が立てられない、仕事に影響することを心配してしまうのだろうと推測しますが、僕は治療回数に対しては、曖昧に答えざるをえないのです。
その理由は、治療場所が多ければ多いほど不確定要素も多くなり、正確な治療回数を決めることができないことです。 一つ例を挙げます。20本の歯にむし歯があり、しかもそのむし歯がどれも深く進行しているような場合、むし歯を除去して詰めるだけでは済まされない、神経の処置を行わないといけないケースが考えられます。むし歯を詰めるだけの処置なら1回で済んでも、神経の処置となると数回以上増えます。しかも、神経を処置すると詰めるだけではなく、詰め物や被せ歯をしなければならない場合もあります。そうなれば、更に数回以上治療回数が必要となります。一本のむし歯の治療を終えるのに7〜8回近くかかることもあるのです。同様の処置を20本の歯全て行うとすれば、治療回数は単純に掛け算をしても140回〜160回近くになります。1週間に1度の治療であれば、140週〜160週。1年は53週ぐらいですから2.6年から3年近くかかることになります。途方も無い数字となります。
このような場合、患者さんにこの事実を伝えていいものか?僕は疑問に感じるのです。
人間は普段接している数字の大きさとあまりにも掛け離れた数字を見てしまうと、かえって実感と乖離してしまうものです。治療回数もそうで、あまりにも回数がかかることが予想される場合、いくら予想治療回数とはいえ、伝えると患者さん自身の治療に対するやる気、モチベーションが萎えてしまうことが多いのではないか?その結果、治療が続かず、中断してしまう可能性が高いように思うのです。
上記のような例は極端な例かもしれませんが、実際の所、多数の歯が悪い患者さんの場合の治療回数は上記のようなことが決して大げさではないのです。
読者の皆さんにおかれまして、歯に何らかの異常を感じた際には、なるべく早くかかりつけや近所の歯医者さんで治療を受けて欲しいと思います。我慢をし、放置していてもプラスになることは何もありません。かえって健康を悪くし、懐も悪くするだけですから。
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