2008年02月14日(木) |
バレンタインデーに間に合いますか? |
「一晩寝たら大丈夫だろうと思っていたら頬が腫れてきたんですよ。」
今から1週間ぐらい前、そう言って来院した急患の患者さんがいました。 話を聞いてみると、数日前から右下の奥歯の歯ぐきに違和感があったとのこと。この患者さん、連日朝早くから夜遅くまで仕事をしていたそうで、歯ぐきの違和感は疲労の蓄積によるものではないかと思い、充分に睡眠をとることができれば回復するだろうと思っていたそうです。ところが、歯ぐきの違和感は一向に収まらず、かえって悪化。起床して鏡を見た時、自分の右頬がお多福のように変わっている姿に驚き、急遽うちの歯科医院に来院したそうなのです。
実際にこの患者さんの口の中を診たところ、右下大臼歯部に大きな腫れがあり、その腫れが原因となり、頬に波及していました。これは歯槽膿瘍というもので、歯の周囲に何らかのばい菌が感染し、膿が溜まった状態だったのです。
口全体を診たり、レントゲン写真から判断した限りでは、本当の原因は歯周病でした。もともと、この患者さんには歯周病があったのですが、健康な時には自らの免疫で何とか悪化を防いでいた。ところが、連日の仕事による疲労の蓄積により免疫が弱くなり、そのため、歯周病に侵されていた右下大臼歯部の一部が急速に悪化し、膿が溜まるような事態になったものと思われました。
このような場合、最初にしなければならないことは、言うまでも無く少しでも早く膿を出すことです。そうしなければ、膿はどんどん溜まり頬の腫れは大きくなる一方だからです。
僕は直ちに原因となっている歯の歯肉周囲に麻酔をして、直ちに切開、すると、白黄色の膿が大量に出てきました。量にすれば10ccぐらいだったと思いますが、頬が腫れてお多福のようになるには充分過ぎる膿の量です。
その後、切開した歯肉の中を何度も生理食塩水で洗浄し、残っている膿や汚れを洗い流し、切開した場所へ一枚の薄いナイロン製の短冊を入れておきました。これはドレーンと呼ばれるもので、深部に溜まった膿を出すために敢えてメスで切開した部位に入れておくものです。 人間の体はどんな傷ができても直ちに修復しようとする仕組みがあります。今回のようなメスで意図的に切開した場合もそうで、切開すればその部位を閉じようとするものなのです。今回のような腫れの場合、このような傷が閉じることは都合が悪かったのです。なぜなら、膿が深部に残っている可能性がありました。これら膿を出し切らないと完全に腫れは治りません。そのため、膿を完全に出し切るまで切開した傷が閉じないようにしなければならなかったのです。そのために傷口に敢えて挿入したのがドレーンだったわけです。
患者さんにはそのことを充分に説明し、決して大きな口を開けないようにしてもらいながら、なるべく養生するように伝えました。その患者さん、診療室を出る直前、唐突にあることを尋ねてきました。
「先生、バレンタインデーに間に合いますか?」 「微妙なところですね。一日も早く間に合うようにするために、処方した薬はきちんと飲んで、僕が言った注意事項をきちんと守って下さいね。」 「バレンタインデーに貰うチョコレートには目が無いものですから。」
さて、この患者さんバレンタインデーに間に合ったのでしょうか?間に合ったことを祈るのみです。
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