2008年02月12日(火) |
地域医療を潰そうとする厚生労働省の愚策 |
昨日、ニュースを見ているとこのような記事が載っていました。以下はこの記事の引用です。
宇和島徳洲会病院(愛媛県宇和島市)の万波誠医師(67)らによる「病気腎」移植をめぐり、厚生労働省は10日、万波氏が25件の病気腎移植を手がけた前勤務先の同市立宇和島病院に対し、保険医療機関の指定を取り消す方針を固めた。不正な保険請求やカルテの一部破棄が監査で確認され、悪質と判断した。取り消し期間は原則5年だが、地域住民への影響を考慮して1カ月に短縮するほか、患者の医療費負担が増えない方向で最終調整している。 万波氏は宇和島徳洲会病院でも病気腎移植を11件実施しており、同病院についても同様の行政処分が検討されている。 病気腎移植問題が表面化した06年秋以降、厚労省や愛媛社会保険事務局などは1年以上にわたって両病院を監査し、診療記録などを調べた。その結果、市立宇和島病院では、同省の規則に違反して、特殊または新しい療法とされる病気腎移植の診療報酬を保険請求していたほか、ほかの診療でも不正請求が相当数見つかったという。同省は、これら不正請求分の返還も病院側に求める。 さらに、病気腎移植を受けた患者のカルテの一部が、治療終了後5年間の保管義務に反して破棄されていたことが判明。同省は腎臓摘出患者や移植患者への説明も不十分だったとみている。 指定取り消し期間について、同省は大型連休で患者への影響が最も少ないとみられる今年5月の1カ月間とする方向で検討。期間中、健康保険証が使えない病院となり、患者は医療費の全額負担(通常は3割)を強いられるが、「療養費委任払い制度」を適用し、病院側が医療費の7割分を各健保組合などに請求することで混乱が避けられるとしている。 同病院は県南部唯一の救命救急センターが併設された中核病院。指定取り消しが地域医療に与える影響が大きいとして、加戸守行知事らが国に指定継続を要望していた。 保険医療機関の行政処分をめぐっては、診療報酬の不正請求が明るみに出た藤枝市立総合病院(静岡県)が昨年10月、1カ月間の指定取り消しとなり、療養費委任払いが適用されている。
以前、僕は病気腎移植に是非については書いたことがあります。今回は敢えてこのことについては触れません。それよりも僕が気になったことは、一人の医師の行ったことが病院全体まで影響が波及し、罰則の対象になっていることです。すなわち、地域の中核病院ともいえる総合病院全体での保険医療機関取消処分が果たして良いものかということです。
宇和島病院にしても藤枝市立病院にしても問題になったのは一部の診療科、一部の医師であるはずです。本来であればこれら一部の診療科、一部の医師に対して何らかの罰則が行われなければならないはずなのに、何か連帯責任のように病院全体に罰則を適用するというのは如何なものかと思うのです。 伝え聞くところによると、総合病院は病院として保険医療機関の登録をしている関係上、保険医療期間の取消は、問題を起した診療科単位で行えない事情があるそうですが、僕はこれは非常に頭の固い、柔軟性のことだと思うのです。
現在、地域医療の崩壊が全国のあちこちで叫ばれています。全国の病院では医師不足によりいくつもの病院の診療科や病院そのものが閉鎖される事態となっています。都市部においても救急医療態勢が組めず、多くの救急処置を必要とする患者さんがあちこちの病院をたらい回しにされ、救急搬送されない事態が社会問題化しています。地域の中核病院は、地域医療にとって非常に貴重な医療機関であるのです。ただでさえ危機的状況にあるにも関わらず、厚生労働省は一罰百戒であるが如く、病院の保険医療機関取消を行い、地域医療を麻痺させ、地域住民を混乱させようとしてます。これはどう考えても愚策であるとしか思えません。
保険診療の不正請求に携わった担当医、診療科は問題であるとは思いますが、問題を病院全体に押し付け、病院としての機能を停止させ、地域医療に混乱を与えることが果たして良いことなのでしょうか? 愛媛県知事は桝添厚生労働大臣に対して、宇和島市立病院の保険医療機関取消処分に対し嘆願をしていますが、これは宇和島地域の人たちの切実な訴えだと思うのです。もし、厚生労働省が、例え1ヶ月にせよ宇和島市立病院の保険医療機関取消処分を行うならば、宇和島地域の人たちは大変な迷惑を被ることは確実です。宇和島地域医療が崩壊してしまう可能性さえあるのです。
厚生労働省は影響の少ない5月に処分を検討しているそうですが、本当に影響が少ないのでしょうか?僕はむしろ逆だと思います。総合病院の通常の診療日数は確かに少ないですが、総合病院には祝祭日には救急病院としても任務、使命があるのです。多くの一次医療機関が休診している時には総合病院が受け皿として救急医療を担わないといけないのです。そんな病院で保険証が使えず、かかった医療費を全額自己負担しなければならない。 医療費委任払い制度を適用するという話ですが、これにしても諸手続きが必要であり、窓口で保険証を提示すればかかった医療費の3割(一部の人は2割や1割)負担するだけで良い状況とは根本的に異なります。医療費の支払いについてはたとえ1ヶ月の期間であったとしても、病院側にも患者側にも相当な混乱があるはずです。 ただでさえ、地域医療の困窮が伝えられる中、更なる混乱を意図的に作るような状況を厚生労働省は行おうとしているのです。これを愚策と言わずして何と言いましょう。
どうも、厚生労働省の関係者は地域医療の現状をご存じない、現場を知らない人が多いようです。どうかもっと柔軟に医療政策を行って欲しいと願わずにはいられません。
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