2008年01月21日(月) |
退職後趣味に生きる歯医者 |
「親父は去年の一月から全く歯医者をやっていないのですよ。」
先週末、僕は地元歯科医師会の新年会に参加してきたのですが、新年会の際、隣の席に座っていたのが若手のH先生でした。H先生は某歯科大学を卒業後、10年間ほど某病院に勤務していたそうですが、昨年から地元歯科医師会に入会した先生です。 実は、このH先生は僕と同じ歯医者の息子で、お父さんである大H先生も同じ地元歯科医師会の会員であり、先輩の歯医者の先生です。同じ歯医者の息子として話をしていた中で飛び出した発言が冒頭の言葉だったのです。
僕の親父も歯医者ですが、これまで何度もこの日記で書いているように、親父は僕の隣で歯医者として診療をしています。かつてに比べれば仕事量は減りましたが、それでも、診療をする意欲がありますので、僕自身、何も言わず仕事をしてもらっています。 そんな親父とは対照的にH先生のお父さんである大H先生は、完全に歯医者としての仕事をリタイアしてしまっているのです。
「一昨年の秋頃、親父から連絡がありまして、『もう診療所で歯医者として仕事をするのがしんどくなってきた。そろそろ仕事を代わってくれないか?』言ってきたのです。僕も行く末は親父の仕事を継がないといけないなあとは考えていたのですが、突然の親父の申し出でびっくりしました。何か病気でもしているのではないか?そんな心配をしていたのですが、幸いなことに健康面では問題はありませんでした。僕としては、もう少し勤務先の病院で仕事をしていたかったのですが、親父がどうしても診療所の仕事をして欲しいと強く希望するものですから、思い切って親父の診療所で仕事をすることを決心したというわけです。」
「それにしても、お父さんは先生が診療所で仕事をするようになってから全く歯医者として仕事をしていないんだね?それは思い切ったことだね。」
「そうなのですよ。当初は親父は少しずつ仕事量を減らしていくのかな?と思っていたのですが、実際に蓋を開けてみれば全く何もしないのですよ。僕が今の診療所で仕事をし始めてから、診療所で親父の姿を見たことは一度もないくらいなのです。」
「歯医者を全くしなくなったお父さんは、普段は何をしているの?」
「ずっと野山を駆け回っていますよ。親父は虫が大好きで、以前から仕事の合間に近くの山林はもちろんのこと、全国各地に虫取りに行っているんです。歯医者をしなくなった今、その虫取りが仕事みたいになりまして、しょっちゅう虫を採ってきては標本にしていますよ。」
歯医者というと、うちの親父のように歯医者以外に趣味を持たず、歯医者をしないと暇を持て余してしまうような人がいるかと思えば、趣味を持ち、歯医者として仕事をしていない間は、趣味に没頭してしまう人もいます。大H先生は典型的な後者の例ですが、それにしても、歯医者を完全にリタイアして趣味の世界に生きてしまう歯医者は珍しいと思います。息子が歯医者として自分の診療所を継いでいるという安心感があるからこそできることでしょうが、歯医者を完全に辞めてしまっても他に生きがいがある、何かに専念できる趣味があるということは、幸せなことだなあと感じます。
長年、社会の一線で活躍していた人が退職してから何をして一日を過ごしたらいいのか?悠々自適な生活を送れるはずの人がかえって暇を持て余し、余った時間の使い方に悩んでいる人が多いという話は、しばしば耳にします。歯医者という仕事は、患者さんに迷惑を掛けない限り、引退は自ら決められる仕事でもありますので、会社や工場勤務の人が時間を持て余し、悩むようなことは少ないものですが、それにしても自分の仕事以外に一日を快適に、充実した日を過ごすことができる何かを持っている歯医者というのは、ある意味うらやましいです。
|