歯医者さんの一服
歯医者さんの一服日記

2008年01月18日(金) 木を見て森を見ず

”木を見て森を見ず”という慣用句があります。この慣用句の意味はご存知だと思いますが、特定の場所、特定の人などに集中するが余り、全体像を把握することができない様のことを表すものです。

この慣用句、歯医者にとっては常に意識しておかなくてはならないことです。なぜなら、歯医者は患者さんの口の中、歯の悪い所、症状がある場所を治療しています。原因を探り治療を行うのは当然ですが、治療に専念するが余り、口や歯が体の一部であることを忘れてしまう傾向があるからです。もし、治療をしている患者さんが他の病気にかかり、薬を服用しているとしたら?いくら患者さんが口の中に症状があるとしても、原因を治療することが患者さんの全身状態を悪化することになる可能性さえ否定できないのです。それ故、最初に行う問診が非常に重要で、この時点で出来る限りの医療情報や日常の生活習慣などを聞き出すことが大切なのですが、毎日何人もの患者さんの口の中を治療していると、ともすると口の中にしか視点が行かなくなってしまうものなのです。

このことは、歯医者以外の医者にも言えることです。医者というと体のこと全てがわかっているように思いますが、現在の医学はそれぞれの専門が細分化されております。いくら心臓移植の権威であってもインフルエンザの治療はできない、なんてことはよくあることなのです。医者が口の中を意識しないことも多々あります。

先日あったことですが、ある患者さんがうちの歯科医院に来院しました。その患者さんは最近、皮膚が乾燥したり、痒みがでてくるようになったそうですが、近所の皮膚科医で診て貰ったところ、どうも歯に原因があるのではないかと指摘されたらしいのです。歯の中でも歯に詰めてある金属が皮膚の症状に影響しているのではないか?と言われ、歯に使用する金属に関する検査を受けることになっただが、その前に一度歯医者でも口の中を診て欲しいということでした。

口の中を診て、僕は思わずため息をつきました。

どうしてため息をついたか?その理由は単純でした。その患者さんの口の中には歯が一本の残っていなかったからです。総義歯を使用されていましたが、総義歯には歯科用金属歯全く認めませんでした。患者さんにはそのことを説明し、担当の皮膚科医にもそのことを伝えるようにお願いしましたが、このようなことは何も僕が指摘しなくても、皮膚科医が一度口の中を確認すれば直ぐにわかることです。それがなされていなかった。如何にこの皮膚科医が口の中を診ていないかということが披露してしまったようなものですが、これもついつい自分の専門分野の治療に専念するがあまり他の体をじっくり観察できていないからだと思われます。

木を見て森を見ず。

決して他人事ではなく他山の石としなければならないことです。


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