歯医者さんの一服
歯医者さんの一服日記

2008年01月12日(土) 手の甲に書かれた“タマネギ3個”

歯の治療においてレントゲン写真を撮る事は必要不可欠なことです。歯科で撮影するレントゲン写真にはデンタル型と呼ばれる2〜3本程度の歯を写すものと、顎全体を撮影するパノラマ型がありますが、撮影する頻度からいえばデンタル型が圧倒的に多いのです。

歯医者でレントゲン撮影をした方ならわかると思いますが、このデンタル型、フィルムを口の中に保持して撮影するのですが、保持するのは患者さん自身です。撮影したい歯の裏側にレントゲンフィルムを置き、患者さんの指で押さえ、保持してもらうのです。
その際、歯医者は否が応でも患者さんの指や手を見てしまいますが、僕が毎度レントゲン写真の撮影をして思うことは、いろんな指や手があるということです。当たり前のことといえばそこまでですが、歯や口の中と同様、老若男女の患者さんにおいて全く同じ指、手はありません。指の太さ、長さ、色、皮膚の張りなど、全く同じものがありません。これら指や手を見ていると、その人の人生の一部を垣間見ているようなところがあり、歯とは異なった個性を見ることができます。

先日のことでした。ある主婦の患者さんのレントゲン写真を撮影しようと、レントゲンフィルムを保持してもらったのです。その時、その患者さんの手の甲に僕は思わず視線が行ってしまいました。それは何か文字らしき物が書いてあったからです。よくよく見てみると、その文字とは

タマネギ3個

と書いてあるではありませんか?思わず笑ってしまいそうになった歯医者そうさん。

何かと時間に追いまくられ、忙しい日々を送っている現代人。ちょっとしたことを覚えているつもりでも何か別のことをしている間につい忘れてしまうこともあるものです。人それぞれ、備忘のために紙にメモを書いておき、備忘録としている人もいることでしょうが、手に直接ボールペンやサインペンでメモを書いている人も少なくないと思います。今回の主婦の患者さんも手にメモを書いてしまう人の一人だったのです。

おそらく歯医者で治療をした帰りにどこかのスーパーか小売店で食材を買わなければならないのでしょう。その食材の一つがタマネギなのかもしれません。この主婦の今夜の食事は何なのでしょう?カレーライスなのか肉じゃがなのか?仔細はわかりませんが、少なくともタマネギ3個を是が非でも買わなくてはならない。そのことを忘れてはならない。そのために自らの手にボールペンで書いて忘れないようにしていたのは確かなようです。
まさか手の甲に書いた“タマネギ3個”を歯医者で見られているとは思いもよらなかったでしょうが、僕は見てしまいました。見てしまいましたが、僕は何も言わず、見ていないふりをして何事もなかったかのように歯の治療を続けた歯医者そうさん。

患者さんは日常生活の貴重な時間の一部を割いて歯医者で治療をしているのだなあ。そのようなことを改めて感じながら、少しでも早く治療を終えてあげようと思った、歯医者そうさんでした。


 < 前日  表紙  翌日 >







そうさん メールはこちらから 掲示板

My追加