歯医者さんの一服
歯医者さんの一服日記

2008年01月09日(水) 人の弱みに付け込みたくない

昨日は新年初めての地元歯科医師会の会合。新年の挨拶もそこそこに、いつもと同じようにしばし雑談となりました。この雑談の中で歯医者仲間の一人、K先生が興味深いことを言いました。

「僕の長年の友人がいるんだけど、その友人がどうも歯が悪いようで僕に相談してきたんだよね。実際に話を聞いてみると曖昧な点があったので『俺が一度診てやろうか?』と言ったんだよ。そうしたら、その友人、『今回は相談だけでいいから』って断ったんだ。『実際に診てみないと正確なアドバイスもできないよ』とは言ったんだけど、友人は頑なに僕の申し出を断るんだよね。仕方ないから口の中は診ることなしに、概論的な話に終始したんだけどね。こちらとしては長年の友人にも関わらず何かすっきりしないものを感じたよ。」

この話、僕にも同様の経験があります。僕の友人の中にも僕に歯のことを相談するにも関わらず、実際に診ようかと申し出ても断る友人がいます。そんな堅苦しく感じなくてもと思ってしまうのですが、どうしてだろうと自問自答してみると、そのような友人にはある特徴があるように思います。
その特徴とは一体何か?このことを書く前に、僕の友人、知人の中で僕が歯を診たり、治療したりする人のことを考えてみると共通点があります。それは、全般的に歯の状態が良好であることです。多くの歯に治療痕はあるものの、全体的に歯の管理は行き届き、症状のある歯はごくわずかであることが共通点です。ということは、歯に関心があり、歯に自信がある友人、知人は僕に歯を診てもらっても構わない、全然気にしないのではないかと思うのです。

このことを考えると、先の疑問が何となく解けてくるように思います。すなわち、友人、知人の中で僕に歯を診られたくない人は、自分の歯や口の中の状態に自信が無い、コンプレックスがある。自分の弱点である場所を見られたくないという思いが強いのではないかと思うのです。
僕は歯医者ですから他人と話をしているとどうしても口元に視線がいきます。どうしても、人様の口元の状態が目に入ってくる悲しい性があります。他人が何も言わなくても、口元の状態というのはある程度わかってしまうのです。僕に歯を診られたくない友人、知人というのは、歯の専門家として診ても、確かに口の中全体が芳しくない状態であることは間違いないように思います。

この気持ち、わからなくはありません。どんなことでも自分の弱点や悩みというもの、むやみに誰にも告白したくないものです。自分の親しい友人や近親者でさえ隠しているような場合もあるくらいです。体に関する悩みに関しては、非常にデリケートな側面がありますので、いくら長年の友人でも、その道の専門家であるが故に自分の体の悩みを知られたくないところがあるのかもしれません。
また、人には自尊心というものがあります。自分の弱点を触れられることが自尊心を傷つけるような場合、他人に弱点を触れられることを嫌うということはよくあることです。それが歯である場合、いくら親しい間柄であったとしても、歯のことは話題にしたくないのでしょう。僕が歯医者であればなおさらなのかもしれません。

僕自身、人の弱みに付け込むようなことをしたくはない性質なので、歯の悪い友人、知人にはあまり歯のことを話したりはしません。何か相談事があれば、相談の範囲内で話をする。相手が望めば治療をするが、望まなければどこかの歯医者で治療をするように、それなりにアドバイスしているつもりです。これが本当に相手にとって良いことなのかわかりませんが、相手の面目をつぶさないよう、悪い歯を治してもらうようにしむけることも歯医者にとっては必要なことではないかと考えるのです。


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