歯医者さんの一服
歯医者さんの一服日記

2008年01月08日(火) 医療費削減のツケ

年末年始のニュースを見ていると医療に関するニュースがいろいろと報道されていました。中でも救急医療に関して大きく報道されているものが目を引きました。
大阪の89歳の女性が30病院から搬送を断られ、最終的に受け入れる病院に到着するのに2時間かかった挙句、亡くなったというニュースや交通事故に遭った男性が5つの救命センターから受け入れを断られ、収容に1時間要し、結果的に死亡したというニュースなど見られました。
これらはいずれも大阪のニュースではあったのですが、大阪という大都市圏でも救急救命態勢が維持できていないことを示すものとして、日本における救急救命医療が深刻な問題を抱えていることを露呈してしまった象徴的な事件のように思えてなりません。

地域医療が崩壊し続けていることは多くのマスコミにも取り上げられてきていますし、僕も何度か書いてきたことですが、その原因の最も根幹にあることは高齢化社会の到来と高齢者に対する医療費です。
日本は世界で一番の長寿国であることは皆さんもご存知のことと思いますが、長寿であることと、いつまでも健康で生きられることとは意味が違います。実際の寿命と健康でいられる健康寿命との間には男女とも平均で7年の差があるものなのです。
この差というのは、何らかの怪我を負ったり、病気にかかり、自立して生活することができず、誰かの助けを借りながら、介護を受けたり、医療を受けなければ生活できない期間と言っていいでしょう。当たり前のことですが、高齢者はどうしても体力が衰えてくるものです。どうしても若い世代の人よりも医学的に弱い立場にならざるをえず、医療を受ける機会が多くなるのは必然です。いくら若い頃に体を鍛えていたり、健康に気を使っていたとしても怪我になりにくかったり、病気に掛かり難くなる可能性はありますが、人間は誰でも死を迎えます。死を迎えるにあたり何の医療も受けずに死を迎える人はほとんどいないのです。ということは、誰もが死ぬ間際には医療を受けざるをえないのは仕方のないことだと思うのです。
これら医療を受けるには当然のことながらお金がかかります。日本のような高齢化社会、少子高齢化が進むということは若い世代が医療費を負担せざるをえない状況になっているのです。これは大変なことである。年間33兆円以上あるといわれる医療費を含めた社会保障費を少しでも抑制しようと、国では毎年2200億円の社会保障費の削減をめざし実行しているのですが、この弊害が最も顕著なのが医療態勢の崩壊です。

年末年始にマスコミに取り上げられていた救急病院の患者受け入れが多くの病院で拒否された問題はその一端です。決してどの救急病院も好き好んで患者の受け入れを拒否しているわけではありません。どの病院も受け入れたくても受け入れられない事情があるのです。これまでであれば、比較的症状が軽い患者さんの受け入れをしていた病院が少なくなり、高度救急医療をしている病院に集中する。しかも、医者側は、研修医制度の改革により、大学医学部病院や医科大学病院から地域病院への医師派遣ができなくなり、地域で医療を担う医師が不足してしまった。その結果、限られた医師で急速に増えた患者さんを治療しなければいけないという事態に陥ってしまっているのです。この問題は厚生労働省による医療政策の完全な失政だと思うのですが、その根本には、何が何でも毎年増大する医療費を抑制しないといけないという国の方針が大きく影響しているのは間違いのないことだと思います。

中でも保険医療において、保険医療制度のマイナス改定を何度も行ってきた愚策のつけの一つがここにあります。国では、限られた医療費を救急医療や、地域病院、専門医が少ない小児科、産婦人科医療へ振向け、開業医への医療費を抑制しようとしていますが、最も身近なかかりつけ医である開業医を締め付ければどうなるか?今の医療は益々混迷を深めていくように思えてなりません。

国の財政状況を考えれば、医療費を少しでも抑制したいという考えはわからないでもないのですが、そもそも今の日本の少子高齢化の現状を考えると、医療費を抑制することを考えること自体が全くのナンセンスではないかと思うのです。
高齢者の方たちは、長年、日本の社会を担ってきた人です。いろんな人がいますが、今の僕のような世代を育ててきてくれたのは間違いなく今の高齢の方たち。この高齢者が人生の終わりを迎えるにあたり、安心して生活することができるようにするためには確固とした医療が不可欠なのは言うまでもありません。医療費の削減というのはこうした高齢者の医療の機会を結果的に奪うものです。いくら国の財政が厳しいからといって医療費までケチるというのは如何なものでしょうか?
しかも、この4月からは75歳以上の高齢者も保険料を負担しなくてはならない後期高齢者医療制度がスタートします。政治的判断によって医療費の負担がどのようになるかは不確定なところはありますが、基本的には高齢者も死ぬまで保険料を負担しなくてはならないようになっているのです。これでは経済的に余裕の無い高齢者に“金の無い者は死ね!”と宣言しているようなものです。これで果たしていいのでしょうか?

国では療養病床数削減の見直しも行おうとしていますが、これなども国が医療費をケチろうとした結果、医療現場で医療難民と呼ばれる人が急増し、大きな社会問題化しているからです。医療費削減という根本の思想が間違っているということを国はいい加減に理解し、そのための対策を打ち出さないといけない時期に来ていることは間違いありません。


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