2007年12月20日(木) |
歯を磨かないのにむし歯にならない理由 |
患者さんの口の中を見ているといろいろと感じるのですが、その中の一つにつば、唾液があります。むし歯の多い患者さんの口の中を見ていると、往々にして唾液が粘っこいのです。 ところで、唾液が口の中に果たす役割というのはいくつもあるわけです。思いつくままに書いてみると、
酵素としての作用 唾液に含まれるアミラーゼが澱粉を麦芽糖に分解する。 咀嚼の補助作用 唾液は食べ物を湿らせ、歯で粉砕し飲み込みやすくする。 円滑作用 唾液は口腔粘膜を湿らせる咀嚼、発音、発声をスムーズにできる。 洗浄作用 唾液は食べかすが歯や口腔粘膜に貯留することを防止する。 殺菌・抗菌作用 唾液に含まれる酵素の中に殺菌・抗菌作用があるものがある。 水素イオン濃度緩衝作用と希釈作用 唾液は口の中に侵入した酸やアルカリを中和する。
などでしょうか。
唾液は通常一日に1〜1.5リットル分泌されます。誰も意識はしていませんが、かなりの量の唾液が一日に分泌されているのではないでしょうか。唾液成分の99%は水分です。
唾液というのは主に唾液腺と呼ばれる組織で作られ、口の中に分泌されます。唾液腺には小唾液腺と大唾液腺があります。小唾液腺は粘膜に細かくある唾液腺のことで別名、口腔腺とも言われています。一方、大唾液腺は顎下腺、舌下腺、耳下腺があります。顎下腺、舌下腺は下顎の内部、舌の下に位置しています。耳下腺は耳のやや前方に位置しています。大唾液腺は“大“というくらいですから、口の中で作られる唾液の大部分が作られる場所であることが言えるでしょう。 興味深いことに、これら大唾液腺で作られる唾液の質が微妙に異なります。 そもそも、唾液腺の細胞はサラサラした唾液を作る漿液細胞とネバネバした唾液を作る粘液細胞の二種類があります。この二種類の唾液腺細胞ですが、
顎下腺では漿液細胞と粘液細胞の混合性だが、漿液細胞が優勢 舌下腺では漿液細胞と粘液細胞の混合性だが、粘液細胞が優勢 耳下腺では漿液細胞がほぼ全て となっています。
上記の大唾液腺のことを考えると、耳下腺や顎下腺から出される唾液量が多い人は唾液の質がサラサラしやすいことがいえるかもしれません。 実際に患者さんの口の中を見ている経験からいいますと、唾液がサラサラしているということは、唾液の量が多い場合が多いようです。唾液の量が多いと口の中が常に湿っている状況です。その一方、唾液量が少ない人の場合、口の中はネバっぽい傾向にあると思います。
むし歯予防から考えると、唾液はサラサラした質の方が好ましいものです。理由は簡単で、サラサラした唾液だと食べかすやむし歯菌などの口の中のばい菌が歯に留まりにくく、流されやすいからです。すなわち、唾液がサラサラしているとむし歯になり難いのです。反対に唾液がネバネバしていると、食べかすやむし歯菌などを含んだばい菌が歯に付着しやすく、結果としてむし歯になりやすい環境になってしまうのです。
皆さんの周囲にもいるかもしれませんが、大して歯を磨いてもいないのにむし歯になった経験が無い人がいるものです。このような人たちがどうしてむし歯にならないかという理由の一つには、彼ら、彼女らの口の中の唾液の質が影響している可能性が高いのではないかと思います。
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