昨日、ニュースを見ているとこのようなニュースが流れていました。
飲み込んだ入れ歯を見過ごしたため患者が肺炎を発症、死亡させたとして、京都府警は6日、業務上過失致死の疑いで、京都市下京区の「武田病院」に勤務する男性医師(44)を書類送検したとのこと。京都府警の調べでは、男性医師は今年1月27日、自宅で食事中に下あごの入れ歯を飲み込んで同病院に搬送された同区の無職女性=当時(60)=を診察、「入れ歯の飲み込みはない」と判断して帰宅させたそうですが、5日後、食道に膿などがたまることによって肺炎を発症させ死亡させた疑い。 これまでの調べでは、飲み込んだ入れ歯は縦約4センチ、横約6センチの馬蹄(ばてい)形。医師はレントゲン撮影をしたが、アクリル樹脂製だったため、画像に映らなかったとのこと。 京都府警は女性の夫(66)からの告訴を受けて捜査を開始。女性側は診察時、「入れ歯がのどに詰まっている」と訴えており、府警はCT検査などで詳しく検査すれば食道に詰まった入れ歯を発見できたと判断したそうです。
この女性は上顎、下顎とも総入れ歯を装着していたようです。総入れ歯の場合、下顎の総入れ歯の方が維持、安定が悪い場合が多いのが実情です。その理由は舌にあります。 下顎の場合、舌があるわけですが、舌は食事や会話によって絶えず動きます。そのため、総入れ歯の場合、余程維持がよくないと動きやすいのです。 しかも、上の総入れ歯に比べ、下顎の総入れ歯は舌がある分接触面積が少ないのです。入れ歯の維持、安定は接触する面積が大きければ大きいほどいいわけですから、下顎の総入れ歯は上顎の総入れ歯に比べて歯肉への維持、安定性が劣っていることがわかると思います。歯医者にとって、維持、安定の良い下顎の総入れ歯を作ることは、かなり難易度の高い治療の一つなのです。特に、歯周病が進行し、全ての歯を失った人の場合、顎の骨も痩せている傾向が強いもの。顎の骨が痩せていれば痩せているほど総入れ歯の維持、安定は悪くなります。
おそらく、亡くなられた女性は下顎の総入れ歯の維持、安定性があまり良好ではなかったのではないかと思います。そのため、何気なく飲んだ飲み物で入れ歯を誤って飲み込んでしまったのではないかと思います。
記事にも書いていますが、総入れ歯の場合、保険診療で作った総入れ歯はアクリル製です。このアクリル、X線に対する透過性が良いのです。ということは、レントゲン撮影を行っても総入れ歯は写らない、写ったとしても明確に写らないのです。この記事の医師が診断を誤った背景には、総入れ歯の材質の問題が大きく影響していたことは間違いようです。
それでは、飲み込んだ総入れ歯をどうやって取り除くかということになりますが、基本的には内視鏡によって取り除くことになると思います。口から内視鏡を入れ、入れ歯をはさんで取り除くことで取り除くことができるのですが、一つ問題があります。それは、内視鏡を使いこなすことができる医者しかこの作業を行うことができないということです。救急の医者であれば誰でもできることではないのです。実際の臨床の場では、耳鼻咽喉科の専門医が行うことになると思います。
入れ歯のような大きなものを飲み込めることができるのかと思われる方がいるかもしれませんが、総入れ歯で口の中で維持、安定がうまくいかず動き回っているような入れ歯の場合、飲み込んでしまうリスクが高いのです。 皆さんの周囲で、入れ歯、特に総入れ歯を使用している人で、総入れ歯の調子が悪いと訴えているような人がいれば、是非、近くの歯医者を受診することを勧めて欲しいと思います。歯医者で入れ歯の調整をすることで、総入れ歯の維持、安定性は改善されることが多いもの。このことが入れ歯の飲み込み事故を防ぐことにもつながりますから。
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