2007年12月10日(月) |
歯の悪化スパイラル地獄 |
先日、ある患者さんが久しぶりに来院しました。この患者さん、上の前歯の被せ歯をセットしようとして歯型を取り、被せ歯を作ってセットする直前になって来院が途絶えました。うちの歯科医院では何度か連絡を取ったのですが、連絡が全くつかず、そのままにせざるをえませんでした。
それから数ヵ月後、その患者さんが来院したのです。来院した理由は仮歯が取れたということ。仮歯を装着していた歯は上の前歯で、まさしく被せ歯をセットしようとしていた歯そのものでした。 患者さんに確認してみると、しばらくの間家庭の事情で来院することができなかったとのこと。これが本当の理由かは定かではありません。おそらく、仮歯が割れたことで見た目や触感が悪くなり、溜まらず来院したというのが本当のところではないかとは思ったのですが、そのようなことは口に出さず、作っていた被せ歯をセットしようとしました。ところが、セットはうまくできませんでした。その理由は、被せ歯をする歯と隣の歯の間に隙間ができていたからです。
仮歯を被せていた歯と隣の天然の歯との間には多くの食べかすが溜まっていました。このように食べかすが溜まったまま放置していると、歯と歯との間には徐々に隙間が生じてくることがあるのです。 そんなことがあるのだろうか?と思われる方もいるかもしれませんが、これはしばしば見られることです。歯と歯の間に物が詰まったまま放置していると、両方の歯を広げるような力がかかるのです。その結果、接している歯と歯が微妙に傾斜したり、移動するのです。一種の食べかすによる歯の矯正治療のようなことが起こってしまうのです。
この患者さんの場合もまさにそうで、せっかく作っておいた被せ歯をセットしようとしても隣の歯との間に隙間ができてしまったため、セットすることができませんでした。結果として再度歯型を取り直すことになりました。 これは歯医者にとっても患者さんにとっても非常に無駄なことです。勝手な患者さんの治療中断によりせっかく作っていた被せ歯が合わなくなり、結果的に再度歯型を取り直し、作り直さざるをえなくなった。二度手間としかいいようがありません。
上記のように、患者さんの中には治療途中にも関わらず来院しなくなる中断患者さんがいるものです。患者さんなら誰でも一日も早く自分の治療が終わることを望むものですし、治療を行う歯医者も治療が少しでも早く終わることができるようにしたいと考えてはいますが、一本や二本の歯が悪いだけならまだいいのですが、多数の歯にわたり問題があるような場合、どうしても長期間の治療が必要となります。長期間の治療というのは患者さんにとって忍耐がいることであり辛抱強く歯医者に通わなくてはならないことは歯医者もよくわかっています。
ところが、患者さんの中には治療期間中にもかかわらず、何らかの理由で治療が中断し、そのまま放置してしまうケースがあるのです。このような患者さんの場合、どうなるか? 悪い状態の歯が更に悪くなっていくことは言うまでもありません。悪い状態の歯が更に悪くなっていくということは治療の手間、時間が更にかかるということを意味します。すなわち、治療費用が更にかさんでしまうのです。治療費用がかかるから歯医者に行かないとなると、当座は治療費を節約しているようでも結果的に治療をしなければならない歯が更に増え、治療費が更に増える。悪い歯を放置してしまうということは、自らの体の健康状態を悪化させるだけでなく、自らの懐も寂しくなってしまう、経済的に追い込まれてしまうことにもつながりかねないのです。
歯が悪いのを放置しているといつの間にか歯を治療したくても治療できなくなるような状況に追い込まれる。歯の悪化スパイラル地獄に追い込まれる患者さんが確実に存在するのは悲しいことです。
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