2007年11月29日(木) |
署名活動と個人情報保護 |
皆さん、ご存知のことと思いますが、皆さんがお住まいになられている都道府県には、多少の違いはあるとは思いますが、福祉医療費助成制度という制度があることと思います。福祉医療費助成制度とは、老人や障害者、母子・父子家庭の人や乳幼児が治療を受ける際、都道府県がその医療費を助成するというもので、社会的弱者の医療費を都道府県が援助する意味において一種の福祉のセイフティネットのような働きをしている制度です。
この福祉医療助成制度、僕の歯科医院がある県においてもあるのですが、最近、僕の歯科医院がある県では、この制度が見直しをされるというのです。具体的には、県の負担分を削減し、窓口で福祉医療費助成制度を受ける対象者が支払う負担金が増えるということです。何でも県の財政状況が非常に厳しいため、福祉医療費助成制度そのもの見直し、削減しようということのようです。
この動きに対し、地元の歯科医師会では緊急の署名活動を行うことになりました。福祉医療費助成制度削減を反対する人たちの署名を集め、県に提出するというのです。先日、うちの歯科医院にもこの反対署名に関するポスター、チラシ、署名用紙が届きました。
早速、僕の家族やうちの歯科医院のスタッフにお願いして署名をしてもらいましたが、うちの歯科医院に来院する患者さんにも署名をお願いしておりました。この署名は患者さんに大いに関係していることであり、社会的弱者と呼ばれている人たちへの公的援助を切り捨てないためにも多くの患者さんの理解、支持が必要だと感じたためです。 僕は患者さんに対し、受付で署名をお願いしていたのですが、受付さんによれば、ある患者さんからこの署名について質問を受けたのだそうです。その質問とは個人情報保護に関する質問だったのだとか。 “署名用紙には何も記述がないが、署名用紙は署名目的以外に情報を他者へ漏らすようなことはないのか?”という質問だったとのこと。受付さんは署名してもらった名前と住所は提出先である県以外には情報を漏らさないことを伝えたそうで、何とか署名をしてもらったのだとか。
何とも今の時代を反映した質問のように思いました。最近は、インターネットの普及により以前とは考えられないくらいの多種多様な情報が錯綜する時代です。また、多くの企業が大量の個人情報を持っている時代でもありますが、この個人情報の流出が後を絶ちません。個人情報保護法が制定されているにも関わらず、何万人単位の個人情報が漏れているのです。これだけ大量の個人情報が流出すると、個人情報の管理に敏感になる人が多くなってくるのは仕方がないことかもしれません。 僕のような医療機関で仕事をする人間にとっては、患者さんの医療情報は重要な個人情報であります。これまでも患者さんに医療情報に関しては守秘義務があるにはあったのですが、個人情報保護法によりさらに医療情報の取り扱いに関しては慎重を期すようになってきました。 うちの歯科医院を含め多くの医療機関では、受付に個人情報の取り扱いについてポスターを貼っています。患者さんの医療情報は純粋に医学的な研究や研修以外には漏らさないこと、実際に個人情報を使用する場合でも、個人を特定しないような配慮を必ず行うことをポスターに宣言しています。そういった意味では、今回の署名用紙に個人情報取り扱いに関する説明が書いていなかったというのは不備であったかもしれません。
しかしながら、僕は腑に落ちないところがあります。本来、署名活動というのは特定の活動に対し、名前と住所を書くことにより自らの意思表示をするものです。前提として自分の名前と住所は署名活動にしか使わない、他の目的に名前と住所を使わないということが暗黙の了解でなかったかと思うのです。署名には他の目的のために使用しないという誰しも共通認識があったはずなのです。この前提を根本から疑うような質問が出てきたことに僕は今の時代を思います。確かに個人情報の保護は大切なことではありますが、署名には敢えて個人情報の保護を訴えなくても個人情報の流出はされないという安心感があったはずなのです。お互いの信頼があったはず。この信頼関係がいつの間にか崩れてしまい、自分の預かり知らぬ所で個人情報が売買されている可能性がある。実に悲しいことと言わざるをえません。
署名活動というのは、一人一人の嘆願、魂の叫びを集めた意味合いが強いものです。そんな署名活動にも敢えて個人情報保護を謳わなくてはならない。人と人との信頼関係の薄さを感じざるをえません。悲しいことです。
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