歯医者さんの一服
歯医者さんの一服日記

2007年11月17日(土) 自分の身は自分で守らなければ

昨今、病院の勤務医の過酷な労働の実態が明らかとなっています。この傾向は3年前に始まった医学部、医科大学卒後研修制度の改革に端を発しているのは明らかです。厚生労働省が旗振り役となって始まったこの改革は専門分化が進んだ医療現場を踏まえながら、これから医療現場に立つであろう医学部、医科大学卒業生に対し、幅広い医学知識、技術の習得を求めたものでありますが、その一方で医学部、医科大学卒業生が卒後の研修先を自由に選ぶことができるものでもありました。

結果としてどうなったか?一部の都市部の研修病院に研修医が集中し、しかも研修終了後も都市部で仕事先を探すという結果になったのです。そのため、これまで多数の研修医を受け入れてきた大学病院に研修医が集まらなくなり、結果として大学病院の現場の医師不足が表面化しました。この医師不足を解消するため、各大学医学部の医局では関連病院に出向していた医師を大学に呼び戻すことになったのですが、呼び戻すことによりしわ寄せができたのが地方の公立病院だったのです。中でも、小児科、産科、麻酔科などの科の医師不足は深刻で、いくつかの公立病院では科の廃止や病院そのものが存続できないところが出てきています。

その一方、人員が少なくなった病院では残っている医師の仕事の負担が増大し、過剰勤務の実態も明らかとなってきています。僕の知人の医師の中にも明らかに過労の中、働かざるをえない医師が数多くいます。連続36時間勤務、48時間勤務、それ以上の連続勤務をせざるをえない医療現場。看護師ならば3交代制であり、夜勤明けは翌日が休みであるような環境なのに医師はそうではない。医師は看護師よりも給与が多いだろう?と言われる方もいるかもしれませんが、実態を見ている限り、その給与以上の労働を強いられているのが今の病院勤務医の実態ではないかと思います。

今の日本の医療現場がこうした医師の力によって支えられているかと思うと、僕は厚生労働省の臨床研修医制度の改革をはじめとした政策に対し大いなる批判をしたいと思っています。医療現場を知らない、実態を把握せず、机の上だけの論理で決めた種々の政策のつけは、結局現場の医師に全てふりかかってきているのです。実際の責任を取ろうともしない厚生労働省の官僚に対し、声を大にしていいたいものです。“お前らいい加減にせんか!”と。

このような厳しい現状を変えるにはどうすればよいか?厚生労働省が医師の過重労働対策に本腰をあげようとしない中、一人一人の医師が自己防衛しないといけない時期に来ているのは間違いありません。いつまでも現状に流されているようではいつかは倒れてしまう。患者さんの体を治療するべき医師が患者になってしまう可能性があるのです。

先日、某医療業界雑誌を見ていると、過労死の危険を感じた時にするべきことという特集がありました。その特集、非常に興味深いことが書いてありました。

病院に対し過労対策を訴え続ける
万が一過労死し、遺族が損害賠償請求を行う際、意志の過重労働を病院が知っていたかどうかが争点となるため、訴えておくことに意味があるのだとか。

過労死110番に訴える
労働法規に関する情報提供が得られるほか、今どのような行動を起せばいいのかアドバイスを受けられる。
労働基準監督署に訴える
労働基準監督官の指揮によって勤務状況が改善する可能性がある。

これらのことは勤務医にとってはわかっていても行動できるかどうかはわからないでしょう。ただでさえ仕事に追いやられている勤務医にとって病院や過労死110番、労働基準監督署に訴えようとしてもその時間確保が難しいのではないかと思うのです。また、このような行動を取ることにより、勤務先から煙たがられ、更なる精神的ストレスが増える可能性が高くなります。場合によっては仕事場を追いやられることも考えるとどうしても二の足を踏んでしまう場合が多いのではと思うのです。
そのような中、このアドバイスはなるほどと感じました。

家族や友人、同僚に仕事のきつさを知らせる
過労死した場合にそなえ、自分の労働状況を家族や周囲に訴えておくこので、周囲の人が労災の申請を意識しておくことができる。

自分の労働時間をメモ帳に記録する
労災申請、損害賠償請求などのさい、時間外勤務の記録が無いために、医師が不利になることがあるそうで、残業時間や当直時の負荷を自ら記録しておくことが不可欠とのこと。

病院というのは勤務の実態を把握していそうで実際は把握できていないことが多いとのこと。特に時間外勤務や休日勤務などではその傾向が強いようで、自らの行動の記録を自ら取っておくことが自己防衛に必要な手段だというのです。

そこまでしないと過重労働の医師が自分の身を守れないものかと感じましたが、医療現場の現状を考えると、医師も黙っているだけではだめで何らかの形で行動に移さないとだめだという現実。少しでも過重労働を強いられている医師の労働環境が改善されることを願うのみです。


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