2007年11月15日(木) |
痛くないむし歯ってあるの? |
「○○さん、奥歯の歯と歯の間にむし歯がありますから治療しましょう。」 「本当ですか?むし歯があるなんて全然気が付きませんでした。全く痛みを感じませんでしたからね。」
上の会話は、定期検診に来院したある患者さんとの会話です。自分では全く意識していなかった場所に歯医者の指摘によってむし歯が見つかった。患者さんにとってむし歯を指摘されたことはよかったことではあるのですが、どうしてむし歯があるのに気が付かなかったのだろう?そんな疑問を持つ患者さんは少なくありません。
“むし歯イコール痛い“というイメージを持たれている方が多いのではないかと思うのですが、実際のところ、痛くないむし歯というのも確実に存在します。どういったケースが痛くないむし歯なのでしょう?
一つは、むし歯の進行がごく初期の段階であったり、さほど深くまで進んでいないようなケースです。歯の痛みは歯の内部にある歯髄(神経のことです)によって感じる感覚です。むし歯の進行が進んでいないと、むし歯と歯髄までの距離が遠いことから痛みを感じないことがあるのです。
二つ目は、比較的高齢の方の場合です。歯は小学生から中学生あたりにかけて乳歯から永久歯に生え変わります。一度生えた永久歯は表向きは形は変わりませんが(歯が折れたり、磨耗したりするケースはあります)、実は内部では常に新陳代謝が起こっています。その一つが神経です。神経の周囲は象牙質という組織で囲まれていますが、この象牙質は歯髄に向かって成長し続けています。その結果、年を取れば取るほど神経の占める割合が少なくなってくるのです。 年を取ってからむし歯になると、相当むし歯が深く進行しても歯髄そのものが小さくなっているため痛みを感じないことがあるのです。場合によっては歯が折れてもおかしくないくらいむし歯が進行していても気が付かず、ある時に歯が割れることでむし歯と気が付くようなケースもあるくらいです。
三つ目は、むし歯の進行が遅いケースです。むし歯が進むスピードが遅いと歯髄は痛みを感じることなく徐々に感覚が麻痺し、痛みを感じないまま死んでしまうことがあるのです。これは高齢の方のむし歯に多く、上に書いた二つ目のケースと大いに関係してはいるのですが、定期検診や歯が割れたりすること、それから、突然歯肉が腫れることによって気が付くケースが多いものです。
最後に注意しなければいけないケースがかつてむし歯が進行した際、治療で歯髄を除去してしまった歯です。所謂、根っこの治療をした歯です。一度神経を処置した歯は痛みを感じることができません。その一方、一度神経を処置した歯がむし歯にならないか?というと、それは全く逆です。むし歯になるリスクは神経の処置をした歯に関係なく全ての歯にあります。もし、神経を処置した歯が再度むし歯になれば、それは痛みを感じずにむし歯が進行することになります。
痛みを感じないむし歯というと、ラッキーだと思われる方がいるかもしれませんが、これは大変怖いことです。なぜなら、痛みというのは体のどこかに異常があることを知らしてくれる、一種の警告信号だからです。痛みを感じることにより人間は体の異常を自覚し、治療を受けたり養生したりするものですが、痛みを感じない異常があった場合、気が付いた時には手遅れだったということがあるのです。これは非常に怖いことです。 歯医者というと怖いイメージがありますが、そのイメージの一つは痛みを感じるということだと思います。なるべく痛みを感じない治療をすることは患者さんにとって有難いことだとは思うのですが、痛みそのものは人間の体にとって必要不可欠な生理反応の一つなのです。
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