歯医者さんの一服
歯医者さんの一服日記

2007年11月14日(水) 隠せない癖

ほとんどの歯科医院では、被せ歯、さし歯、インレーと呼ばれる金属製の詰め物、ブリッジ、入れ歯といった補綴物を歯医者が作ることはありません。歯医者は歯型を取り、歯型を元につくった模型までを作ります。その後、歯科技工士に手渡し、補綴物の作製を依頼するのが普通です。

補綴物には必ず技工指示書と呼ばれる依頼書を書きます。設計、作り方、デザイン、色目、注意事項などを書いているわけですが、なかなか言葉にすることが難しい細かいニュアンスや念入れを含め、口頭でも歯科技工士に説明をすることがあるのです。

歯科医院内に歯科技工士がいる歯科医院、そうではない歯科医院がありますが、実態は後者の方が多いものと思います。うちの歯科医院も外部の歯科技工所に依頼しています。
外部の歯科技工所に依頼している歯科医院には、毎日決まった時間に歯科技工所の担当者が補綴物の模型を取りに来るものです。うちの歯科医院でもいつも昼過ぎにT歯科技工所の担当者が模型を取りに来院します。

さて、うちの出入りしているT歯科技工所の担当者ですが、先日、僕はその担当者に尋ねました。

「最近、H君が復帰したのですか?」

担当者は
「そうなんです。先生よくわかりましたね。どうしてわかったのですか?」

H君とはT歯科技工所に勤務していた歯科技工士のことです。数ヶ月前、諸事情がありT歯科技工所を退職していたのです。そのH君がどうしてT歯科技工所に復帰していたことがわかったのか?僕は説明しました。

「最近、お宅にお願いしている歯科補綴物を見ているとわかったんですよ。H君が作っているなって。」
「やっぱりわかりますか、Hの作った補綴物が?」
「わかりますよ。いろいろなところに彼の個性が出ていますからね。」

補綴物というとどれも同じようなものが出来るように思われるかもしれませんが、実際はそうではありません。作る人によって独特の癖というものが必ずあるものなのです。ある程度の補綴物は歯医者の指示がありますが、それでも補綴物を作る歯科技工士の癖が出てくるものです。
どんな癖があるか?ということになると、これは言葉にはしにくいところがありますし、一般の方から見ればわからないかもしれませんが、歯医者が見れば直ぐにわかる性質のものなのです。
H君にも独特の癖があります。数ヶ月前からT歯科技工所で作られた補綴物にはH君が作った補綴物を見なかったですが、1ヶ月前ぐらいからH君が作ったと思われる補綴物をしばしば目にするようになったのです。僕は“もしかしたらH君はT歯科技工所へ復帰したのかな?”と思っていたのですが、それ以降、H君の癖のある補綴物が次々と届けられるようになり、僕の思いが確信へとなった時点で担当者に聞いてみたわけなのです。

この手の癖、何も補綴物だけのものではないでしょう。歯医者以外の様々な職業についているプロと呼ばれる人なら、誰しも特有の癖を持っているはずです。
また、職業人のみならず、老若男女、誰もが何気なく行う仕草、習慣、行動パターンにも人それぞれのはずです。
例えば、よく耳にする話の一つに夫の浮気を奥さんが感じる時があります。これまでと違った行動や言葉の乱れ、生活パターンが見られるようになったことから奥さんは主人に対し何らかの違和感を覚える。そこでピンとくるのが、女性関係。ということから、携帯メールを覗き見して自分が知らない女性の存在に気がつく。
この手のパターンが非常に多いように思います。男ならば隠密にしていたつもりなのにどうして家内は自分の女性関係に気がついたのだろうと思いがちですが、実は自分が思ってもいないことを自分が知らないうちにしていることに気がついていないのです。それくらい、日常の生活パターンというのは誰もが気がつかないうちに一定のパターンがある。それは、何気ない仕草であり、習慣であり、癖でもあるのです。

このことを考えると、何も隠し事をするのは難しいものだと改めて感じる次第。ポーカーフェースで隠し事を常に隠し続けることは至難の業だなあと思いますよ。


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