歯医者さんの一服
歯医者さんの一服日記

2007年10月29日(月) 入院して抜歯することはあるのか?

先日、僕は懇意にしている知人から歯に関する相談を受けました。その相談とは抜歯についてでした。何でも親知らずの抜歯を入院し、全身麻酔をしながら抜歯することになったのだそうですが、わざわざ入院して抜歯をすることはよくあるのか?という相談でした。

歯の抜歯というと一般歯科医院ではしょっちゅう行われている治療の一つです。普通の抜歯は外来通院することで充分に可能なものです。
同じ抜歯でも親知らずともなると抜歯ができる歯医者と抜歯を病院や歯学部、歯科大学附属病院の歯科口腔外科へ紹介し、抜歯してもらう歯医者がいます。いずれにせよ、大部分は外来で抜歯を行うものですが、場合によっては入院して抜歯をすることもあります。

それでは、どのような場合がそのようなケースに当たるのでしょうか?一つは患者さんの希望によることがあります。例えば親知らずが4本あるけども一度に4本の抜歯をしたい、眠っている間に抜歯したいと希望される場合です。

通常、外来での親知らず抜歯は片側のみ行うものです。左側であれば左側、右側であれば右側というようにです。
親知らずの抜歯は親知らずが顎の奥に位置している関係上、抜歯後は歯肉や顎が腫れることが多いのです。顎が腫れるということは口が開けにくくなり、食事がしにくくなりますし、しゃべりにくくなるものです。もちろん、抜歯の後には内服の抗生物質や抗炎症剤、鎮痛剤などを服用してもらいますが、抜歯という外科治療による体へのダメージは相当なものがあります。親知らずの抜歯の場合、骨に埋まっているような歯が多いため、場合によっては骨を削ることもあります。それ故、通常の歯の抜歯よりも抜歯後の炎症反応が大きく、腫れが生じるのです。
そんな親知らずの抜歯を左右両方同時に行えばどうでしょう?口は開きにくくなり、食事もままならない。場合によっては呼吸も困難になることもあるのです。ですから、外来では通常は上下親知らずを一緒に抜歯することはあっても左右同時に親知らずを抜歯することはほとんどありません。

入院して親知らずを抜歯する場合、4本同時の親知らず抜歯は可能となります。全身麻酔で行う場合、鎮静剤を投与して行う場合がありますが、親知らず抜歯後の管理は担当医ならびに病院が責任を持って24時間監視することとなります。薬の投与も内服薬だけでなく、点滴による投与も並行して行われます。点滴による抗生物質の投与は内服のそれに比べより濃度が濃く、薬のロスが少なく、より確実に患部に作用します。抗生物質以外にも抗炎症作用を持つステロイド系の薬剤も点滴に投与されるわけですから、腫れも少なくなります。また、腫れが大きくなったとしても直ぐに担当医が適切に処置を行うことができるのが病院です。
このようなことから、4本同時に親知らずを抜歯希望される患者さんは、入院することができる病院や歯学部、歯科大学附属病院の歯科口腔外科で抜歯をすることになるのです。

親知らずに限りませんが、歯が非常に骨の深くに埋まっており、抜歯の必要があるような場合も入院して抜歯をすることもあります。このような場合、骨をかなり削ることになるのですが、先に書いたように骨を削るということは術後に相当な炎症を伴います。術後の炎症、腫れがひどくなるようなことが予想される場合は、外来で通院してもらって抜歯をするよりも、入院して抜歯をする選択肢もあるものなのです。

入院して抜歯をするケースとして最もよくあるケースは、患者さんが何らかの病気を抱えているような場合です。歯科医院で抜歯をすると非常にリスクが高い、何らかの体の異常が生じるような病気がある患者さんの場合、歯科医院で抜歯せず、入院の施設がある総合病院の歯科口腔外科で抜歯をすることがあるのです。
皆さんもよくおわかりだと思いますが、歯科治療というのはかなりの精神的ストレスがかかるものです。何らかの病気を抱えた人の場合、精神的ストレスによってその病気が悪化したり、体に何らかの症状が現れるリスクがあります。場合によっては命の危険があることも考えられます。このような場合、入院しての抜歯という選択肢を取ります。
総合病院は様々な科の専門家がいます。もし、入院中に患者さんが自身の抱えている病気の症状が出現したとしても、総合病院ではお互いの科の連携で、病気を抱えた患者さんの対応が可能です。

今回相談を受けた知人の場合、高血圧がありました。高血圧症であってもきちんと血圧の管理ができていれば歯科医院での抜歯も可能なのですが、どうも話を聞いていると知人は高血圧の管理がうまくいっていないようで、そのためかかりつけ歯科医から総合病院の歯科口腔外科を紹介され、そこで入院し、全身麻酔での手術を勧められたようです。

ちなみに、全身麻酔に関しては、現在の医療レベルを考えればほぼ安心なものと言えます。ただし、歯科口腔外科の全身麻酔に関しては他の科のものと異なることがあります。それは、経鼻挿管という点です。通常、全身麻酔を行う時には、患者さんを眠らせてから口の中から気管へチューブを挿入します。このチューブを通じて、手術中も患者さんが呼吸ができるようにするわけですが、歯科口腔外科の手術の場合、口の中が治療場所です。口の中に人工呼吸用のチューブがあれば、手術の妨げになります。そのため、歯科口腔外科の手術では鼻の穴から気管へチューブを挿入するのです。これを専門的には経鼻挿管と呼びます。この点が大きく異なるのです。手術後、鼻の辺りが痛い時期が2〜3日あるかもしれないのですが、これは経鼻挿管による影響なのです。

病院に入院して抜歯をするということは随分と大げさなことのように思うかもしれません。僕の経験でもそれほど症例の数としては多くはないのですが、決して珍しいというわけではありません。通常、僕は親知らず抜歯を行いますが、上記のような場合には懇意にしている病院の歯科口腔外科を紹介し、患者さんの抜歯を依頼します。決して自分一人で全てのケースで親知らずを抜歯するようなことはしない主義です。


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