今から30年前、僕は小学生でした。当時、僕が住んでいる関西方面の公立小学校では、修学旅行といえば伊勢方面への一泊二日旅行でした。僕の母校である地元小学校でも修学旅行は伊勢方面へ出かけたものです。大阪から近鉄電車の特急で伊勢志摩方面まで出かけ、伊勢神社を参拝し、二見ヶ浦付近の宿で宿泊。大部屋でクラス仲間が押し込められたような状態で一晩を過ごし、翌朝早く起きて、二見ヶ浦から夫婦岩を通じ日の出を見たことを昨日のことのように覚えています。
そんな伊勢旅行のお土産といえば赤福餅。当時から伊勢土産の定番だったわけです。この赤福餅に関して、僕は苦い思い出があります。 当時の僕の地元小学校の修学旅行では、事前に申し込まないと赤福餅が買えませんでした。事前に”赤福餅は生ものですから大勢の修学旅行生が一気に買うことができない、事前に予約して購入するようにしなさい”というなことを言われていたのです。 僕はここで大きなミスをしてしまいました。それは、事前に赤福餅を予約するのを忘れていたのです。そのため、友達が赤福餅のピンク色のパッケージの箱を何個も貰っているのを尻目に一人寂しく、赤福餅を買えないまま伊勢を後にした苦い思い出。 食べ物の恨みというわけではないのですが、修学旅行から自宅へ戻るや否や、家族に旅行のことよりも赤福餅を買えなかった悔しさを訴える始末。両親は僕が赤福餅を買えなかった悔しい気持ちを察してか、翌日には大阪の某デパートで赤福餅を買ってくれたのです。
実は、僕が赤福餅を食べたのはこの時が初めてでした。ピンク色の包装紙を取り、箱を開けるとアンコの山がきれいに並んでいる赤福餅。付いていた木のヘラで一山すくってみると、底にモチがあり、その上にアンコがのっかっています。甘さはどちらかというと控えめですが、上品な味。柔らかいが適度なこしのある餅と絶妙な取り合わせです。アンコは山の形、もしくは波の形のように見えますが、何でも一つ一つ指で作っているようで手作りの温かみを感じる形です。
かつて日本マクドナルドの会長であった藤田 田は“人の食べ物の好みは幼少時に食べた食べ物によって決まる”というような趣旨のことを言っていましたが、これは確かに食習慣に関する核心を突いた言葉だと思います。僕にとって小学校6年生の時に食べた赤福餅は今もなお好物の一つとして、機会あるごとに食べ続けている食べ物です。
以降、僕は機会があれば赤福餅を食べてきました。赤福餅は伊勢名物ではありますが、わざわざ伊勢に出向いて購入する必要はありません。大阪近郊のデパートのお菓子売り場へ行けば、確実に赤福餅を買うことが出来るのです。 赤福餅の類似品も数多くありますが、どれも正真正銘の赤福餅に比べれば質は劣ります。赤福は赤福でしか味わえない個性的な味があるのです。このことは単に僕だけでなく、多くの人が認めていることです。長年、伊勢名物、伊勢の土産物の定番として人気が高いことからも容易に想像できることでしょう。
現在、赤福餅が偽装で問題となっているのは皆さんもご存知のことでしょう。いろいろと製品の偽装が発覚するにつれ、会社ぐるみで行っていたことが明らかとなり、多くの批判が起こり、立ち入り検査が行われています。当然のことながら、赤福餅を製造、販売している赤福は営業停止状態となっており、赤福餅も製造されておりません。 生菓子として最も厳正に対処しなければならない製品管理がいい加減にされ、しかも常態化していたわけですから、赤福の販売停止もやむをえないところでしょう。 会社のいい加減な品質管理は大いに批判されるべきでしょうが、僕のように赤福に対して思い入れのある人たちも少なくないはずです。赤福餅は単にお菓子というだけでなく、多くの人に愛され、歴史もある。伊勢の文化的な側面もあるお菓子ではないかと僕は思うのです。
一日も早く、偽装問題の真相が明らかにされ、経営陣の刷新、製品管理体制をしっかりと見直し、今後消費者を裏切るようなことがないようになった上で、再度赤福餅が販売されることを願って止みません。少なくとも僕は、再び赤福餅が食べることができることを信じています。
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