歯医者さんの一服
歯医者さんの一服日記

2007年10月25日(木) 偽薬効果

医療機関に来院する患者さんと話をしていると、時折薬事法で薬と認められていない民間療法がらみの薬や水、サプリメントのようなものを服用していることを話す患者さんと遭遇することがあります。

“周囲の人が体に良いからと言って勧めてくれた”
“知人がたまたま飲んで病気が治った”
“これまで悩まされていた症状から解放された”
等ということをよく耳にします。先日、某宗教団体でリンチ事件がありましたが、この宗教団体が販売する水が万病に効くということで某宗教団体会員に高値で売られていたということは記憶に新しいところです。

僕は薬事法で薬と認められていない薬の効果について真っ向から否定はしません。その訳は、薬でないものを服用しても体の中で一定の薬理効果が出る場合があるからです。

医者、歯医者、薬剤師など医療の専門職になるために必ず学ぶ習得しなければならない科目に薬理学というものがあります。薬を飲んだときに体の中でどのような生理作用、生化学作用が発言し、薬としての効果が現れるかを研究する学問なのですが、この薬理学の教科書の中には、必ず薬でないものを服用した時に一定の薬理効果が現れる記載があります。プラシーボ効果(Placebo effect)と呼ばれるもので、日本語で訳すならば偽薬効果とでも訳されるものです。

プラシーボ(Placebo)の語源はラテン語の“I shall please”(私は喜ばせるでしょう。)に由来しているのだそうですが、元来は患者さんを喜ばせるようなことを目的とした、薬理作用のない薬を指していたようです。具体的には薬ではない、澱粉などの粉末、乳糖や生理食塩水などを薬と称して患者さんに信じ込ませて飲ませ、その後、患者さんの体調の変化を調べるわけです。元々きちんとした薬ではないものを患者さんに飲ませるわけですから、薬の効果は期待できないはずなのですが、興味深いことに何割かの患者さんの症状が改善する場合があるのです。
どうしてこのような現象が起こるのでしょう?昔から病は気からと言われていますが、心理が体の健康に果たす役割は非常に大きいことは間違いのないようです。偽薬だと信じて飲んでいる患者さんの中には、偽薬の薬理効果というよりも気持ちの影響により体の中の免疫力が高まり、正式な薬を飲んだ時と同じような薬理効果が現れるのかもしれません。
これまでの研究では、一種の暗示効果であったり、自然治癒力に影響したり、病気の症状がましになる寛解期に関係しているなどと言われていますが、実際のところはよくわかっていないのが現状です。

様々な病気に効くとされている民間療法のほとんどは、このプラシーボ効果によるものではないかと多くの医療関係者は考えています。このプラシーボ効果ですが、偽薬を飲むことで症状が改善する場合があると思えば、むしろ逆に症状がひどくなる場合も見られます。民間療法は病気や症状が治った、改善したことを前面に出す傾向がありますが、そうでない場合も数多くあるはずです。
ところが、民間療法においては自分たちの都合の悪い症例は隠すのが常です。この辺りが薬事法で認められた薬の開発との大きな違いです。薬事法では薬の開発は何年もかかります。厳しい審査を何度も受け薬としての商人を受けてからも副作用が報告されれば直ちに情報を公開しなければならない義務があります。このような厳密さが民間療法にはないのです。

僕は民間療法を否定するつもりはありませんが、僕が今まで見聞きした民間療法は、どうも本当の薬理効果かプラシーボ効果かがわからないように思います。客観的に冷静な研究に基づき、多くの医療人によって検証された療法でない限り、全面的に信用するのは怖いなあと思う、歯医者そうさんです。


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