歯医者さんの一服
歯医者さんの一服日記

2007年10月11日(木) 口の中のカンジダ?

昨日のことでした。

「一昨日くらいから口の中全体が痛くてたまらん。あんた一度診てくれへんか?」
発言の主はお袋。数日前から体調を崩し微熱が続いていたそうですが、ようやく微熱が治まり何とか体調が元にもどりつつなったなあと感じてきた矢先、口の中全体に違和感を覚えてきたとのこと。その違和感はヒリヒリとした感じだったそうですが、ここ2〜3日の間にヒリヒリが痛みに変化してきたそうなのです。特に困るのが食事を取る時だそうで、食事を食べる時に痛みが伴い、充分に食事を取ることができず、四苦八苦していたそうなのです。そこで口の中に何か問題がないか僕に尋ねてきたようです。
僕は早速お袋を診療所の診療室に連れていき、口の中を診ることにしました。
お袋の口の中は歯肉や頬粘膜、舌粘膜が赤っぽくなっていました。口の中は乾燥気味。確かにこれは問題だろうなあと思っていたところ、前歯の歯肉に白い膜のような物を認めました。僕は確信しました。

「口腔カンジダ症に間違いないね。」

カンジダといえば、女性ならば下り物の原因として一度は耳にしたり、中には経験をされた方がいるのではないでしょうか?何らかの理由により女性の陰部にカンジダ菌という一種のカビが増殖し、粘液となって出てきたのが下り物なのですが、実は、口の中にもカンジダ菌は存在します。
そもそも、人間というもの外気と触れる場所には一定数のばい菌が存在します。皮膚や鼻粘膜、耳の中、陰部とともに口の中も例外ではありません。これらばい菌は常在菌と呼ばれ一定の数、一定の種類のばい菌がバランスを保ち存在し、人間と共生しています。人間の体が健康であれば何ら問題ないのですが、人間が体調を崩したり、病気になったり、病気の治療を行って免疫が弱くなった時、常在菌のバランスが崩れます。すなわち、普段常在菌の中で少数派だったばい菌が力を増し、増殖することがあるのです。そして、人間に悪影響を及ぼすことがあります。このような状態のことを日和見感染と呼びます。日和見感染の原因菌の代表格の一つがカビの一種であるカンジダ菌なのです。

口の中にもカンジダ菌が存在し、今回のお袋のように体調を崩したりして免疫が落ちた時、カンジダ菌の勢力が増し、口の粘膜を侵すのが口腔カンジダ症です。
最近、口腔カンジダ症が注目されたのはHIV感染者です。すなわち、エイズの人たちです。エイズの人たちは体の免疫が落ちますから、口の中のカンジダ菌の勢力が増し、口腔カンジダ症を併発することが多かったのです。
現在では、お袋のように体調を崩した年配の人や入院をしている人、入れ歯を装着している人によく見られます。入れ歯とカンジダ菌というと意外に思われる方がいるかもしれませんが、カンジダ菌は入れ歯を好むところがありまして、入れ歯が不潔のままだと入れ歯にカンジダ菌が増殖し、入れ歯と接する粘膜に口腔カンジダ症が起こることがあるのです。

口腔カンジダ症の症状は、お袋の症状そのものです。すなわち、口の中全体が口内炎ができたように痛く感じ、粘膜全体が赤っぽくなる。そして、粘膜の一部に偽膜と呼ばれる白っぽい幕ができるのです。この偽膜はガーゼで拭うと簡単に除去できるのが特徴なのですが、カンジダ菌が一定数以上増殖すると必ず現れる現象なのです。お袋に前歯の歯肉に見えた白い膜はまさしく偽膜であり、僕は口腔カンジダ症と診断したのです。
念のためにカンジダ菌があるかどうかを調べるために簡易培養キットで培養してみたところ、下のような写真の結果となりました。



わかりにくい写真で申し訳ありませんが、写真の下の3つサンプルは色見本で赤色が陰性、橙色が偽陽性、黄色が陽性です。口の中の粘膜をめん棒で拭い、インキュベーターと呼ばれる恒温培養器の中で24時間保管し、反応を見るのです。
写真の上の1つのサンプルがお袋から採取した粘膜を培養液につけたサンプルですが、12時間の培養でお袋の粘膜から採取した橙色を示していました。すなわち、偽陽性です。この写真ではわかりにくいのですが、実際に見てみると赤色とは異なる橙色を示しております。
偽陽性というと陰性と陽性の中間のように思うかもしれませんが、口腔カンジダ症の診断では、ほぼ陽性とみなします。後12時間残っていますから変化を見届けなければなりませんが、おそらくお袋のサンプルは黄色に近くなるか、黄色になっていくことはほぼ間違いないと思われました。

後は治療ですが、幸いなことに口腔カンジダ症には特効薬があります。内服薬や軟膏、うがい薬といった外用薬があるのですが、今回のお袋のケースではうがい薬を使用してもらうことにしました。昨日から食後、就寝前を中心にここ1週間うがいを励行してもらうことにしているのですが、今朝の時点では違和感は残っているものの、痛みがほぼなくなってきたとのこと。このまま続けていれば口腔カンジダ症は落ち着くことでしょう。


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