| 2007年09月14日(金) |
正確な病気の知識を伝える難しさ |
歯医者では初診の患者さんは問診表というものに記入させられますが、問診項目の中に過去に罹った病気を記入する欄があります。担当医は必ず患者さんの病歴を尋ねるのですが、問診表に書かれたことを見ながら、患者さんにも確認することが普通です。
先日、ある患者さんの問診をとっていると、ある項目に印がついていました。それは病歴の項目に糖尿病と書かれていたからです。僕は患者さんにそのことについて尋ねると、患者さんはこのようなことを言ったのです。
「先生、糖尿病はもう治りました!」
その患者さん曰く、かつて自分は糖尿病だったが、軽症だったことから薬を服用することはなく、食事療法をすることで糖尿病を治した。今では内科医にも行っていない問題ないということだったのですが・・・。
糖尿病という病気は、現状では一度発症すれば治らない病気です。 患者さんの言うとおり、発症し、医者にかかっていた時期は確かに食事療法でコントロールできるぐらいの糖尿病だったことでしょう。定期的に血液検査をし、結果を調べながら食事を制限することで糖尿病の進行を止まらせることができていたことでしょう。このことは決して糖尿病が完治したことを意味しません。あくまでも糖尿病の進行を止めていた、コントロールすることができていたのです。この患者さんは、糖尿病の進行を抑えていたことを完治したと勘違いしていたのです。
僕はこの患者さんの状態は非常に危険だと感じました。本人の病気に対する誤った知識と思い込みが病気を進行させているように思えたからです。 現在の糖尿病治療は、一度発症した糖尿病を如何に進行を止め、これ以上進行しないよう現状を維持するかということに主眼が置かれています。ということは、糖尿病の治療は一生続くということです。定期的に主治医の下を尋ね、各種検査を行いながら糖尿病の進行状態をチェックする。その状態に応じて、食事療法や運動療法を続けるのか、薬物療法にするのか、はたまたインシュリン投与を行うのか、入院治療の必要があるのかなどを診ていかないといけないものなのです。
僕は糖尿病治療の専門家ではありませんが、最低限の糖尿病に関する知識は持っているつもりでしたから、歯の治療の傍ら、糖尿病の治療を継続して受けることを説明しました。僕の説明に対し、この患者さんは意外な表情をされていましたが、糖尿病が進行している可能性があることを指摘されると、顔色が変わりました。
「先生、一度担当の先生に診てもらうことにします。」
どこで誤解が生じたのかわかりませんが、患者さんに正確な病気の知識、情報を伝え、理解してもらうことの難しさを改めて知りました。いくら病気のことを話したとしても、患者さんがその全てを理解するとは限らない。むしろ、中途半端に理解し、肝心なところが理解できていない。強いては患者さんが気がつかないうちに病気が進行し、命の危険にさらされていることもある。 患者さんへの病気の説明は、何度も様々な表現で話し続ける必要があるものだなあと感じた、歯医者そうさんでした。
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