| 2007年09月05日(水) |
痛くない歯の治療の裏側 |
歯医者というと、誰もが“痛い”というイメージがあり、できれば近づきたくない場所と考えていることでしょう。けれども、実際の治療で痛くない治療が実現できれば、多くの人が歯医者に対する認識を改め、親しみやすい存在の一つになることは間違いのないことです。僕自身、全国に10万人いるといわれる歯医者の一人ですが、うちの歯科医院に来院する患者さんが痛みの無い治療を望んでいることはよくわかっているつもりです。
痛みの無い歯の治療の現状ということで、このような記事を目にしました。紹介されていたのは鎮静法と呼ばれるものとレーザーによる治療法ですが、今日は鎮静法について若干の追加解説を書きたいと思います。
鎮静法とは、歯の治療時に点滴によりある種の精神安定剤を適量注入することにより、意識をぼんやりさせる治療法のことをいいます。この方法は、病院での局所麻酔での手術で頻繁に行われている方法なのですが、歯科治療の現場においても応用され、一部の施設で行われています。 記事にも書かれているように、鎮静法の利点は、意識が遠のいている点です。歯の治療時、何かと緊張し、体中が硬くなったりするものですが、鎮静法を行うと、意識があるかないかわからないぼんやりとした状態になるものですから、周囲で一体何が行われているかさえわからない状態となります。歯の治療という緊張を強いられる状況でも薬の力によりその緊張感から開放されるのです。いつ治療が開始され終了したかわからないような意識の元治療が行われるのが鎮静法なのです。
ただし、この鎮静法いくつか注意しないといけないことがあります。 患者さん側ですが、鎮静法が行われる当日は自転車や自動車といった乗り物を自分で乗ることは厳禁であるということです。以前と異なり最近の鎮静法で使用される薬は調節性が良いものが開発されています。すなわち、患者さんの意識状態をこと細かく調整することが可能なのです。そのため、処置終了後、直ちに爽快に目覚めてしまうようなこともできるわけですが、患者さんによっては薬に対する反応、体の中の代謝が異なります。中には薬からなかなか目覚めにくく、治療当日中ぼんやりとし続ける人もいるのです。このような人の場合、治療後に自分で自転車や自動車を操ることは危険極まりない行為です。 また、患者さんによっては鎮静法ができない人もいます。過去の病歴、現在の全身状態、薬に対するアレルギーなどの問題から鎮静法ができない患者さんもいます。どんな人でも誰でもできる方法ではないのです。
歯医者側の注意事項としては、鎮静法は必ず鎮静を専門に行う医師、歯科医師がいないと行ってはいけません。少なくとも、鎮静治療に長けた、歯科麻酔の知識と技術、経験を持った人が患者さんを監視するような状況でないと行ってはいけません。鎮静法では、一人の歯医者が治療を行いながら患者さんの状態を監視しながら薬の調整を行うことは非常に困難を極めます。緊急時に一人の歯医者が治療も緊急処置も迅速に対応することが難しいのです。全身麻酔手術の際、執刀医以外に必ず麻酔医が麻酔をかけ、手術中の患者の監視、薬の調整、呼吸の管理を行うわけですが、これと同じことが鎮静法にも当てはまるというわけです。 ということは、鎮静法を行う際には、患者さんには常に血圧や脈拍、心電図がわかるように種々の測定機器をセットしながら処置を行う必要があります。たかが歯科治療ではないかと思われる方がいるかもしれませんが、薬を使い一時的に患者さんの意識を調整することは、リスクを伴うことなのです。もし処置中に何か起こった時に迅速に対応できるようにするためにも、治療前に測定機器をセットすることは必要不可欠なことといえるでしょう。 従って、鎮静法を行う歯医者というのは非常に限られています。現状では、大学や病院の歯科や歯科口腔外科か、もしくは、一般開業医でも歯科麻酔医と呼ばれる鎮静法に長けた人たちがスタッフとして待機している歯科医院でしょう。どんな歯医者でもできる代物ではないのです。
当然のことながら治療コストは通常の治療よりもかかります。治療コストがかかるということは、患者さんへの治療費にもはねかえるということです。鎮静法は自費治療です。保険は一切利きません。そのため、鎮静に要する治療費は全て患者さんが負担して頂くこととなります。
お金をかけて痛みの無い治療を取るか、少々痛くても保険治療を望むか? 選択するのは患者さん自身ですが、痛くない治療を行う方法の一つとして鎮静法という方法があることは知っておいて損はないだろうと思います。
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