歯医者さんの一服
歯医者さんの一服日記

2007年08月21日(火) 抜歯をしないのが良い歯医者か?

「前に通っていた歯医者で“この歯を抜歯しないといけない”と言われたのですが、抜きたくないのです。抜かなくていいようにお願いできないでしょうか?」
日々、診療しているとこのようなことを言われる患者さんがいるものです。

患者さんの気持ちを考えるとわからなくもありません。親からもらった大切な歯を抜くということは誰しも気持ちの良いものではありません。“歯を抜きたくない、残しておきたい“と思うのは無理もないことです。
歯医者の側から見てみると、患者さんに抜歯をすることを勧めるにはそれなりの理由があります。いろいろなケースがありますが、基本的に抜歯をしなければいけない場合は、歯を残すことが歯や口の中、強いては体全体に有害な場合、もしくはリスクがあると考えられる場合です。何も問題の無い健全な歯を抜くということは余程でない限りありません。以前にも書きましたが、俳優や女優が役作りのために抜歯をするとか、歯の矯正治療のために抜歯をするといった場合に限られると思います。ただし、歯の矯正治療の場合の抜歯は、歯並びを整えるという意味で問題がある歯を抜歯するという意味合いはあるかもしれませんが。

患者さんの口の中を見て、レントゲン写真を撮影し、歯周病やむし歯の進行具合、歯の破折の有無などを調べると、どうしても問題のある歯を無理して残すと、当該歯どころか他の歯や歯並び、咬み合わせなどに悪影響を残すと考えられる場合があるのです。
例えば、ある奥歯がぐらぐらになってきたとします。実際に診てみると、その歯の根っこの周囲の骨が吸収されています。歯周病が進行していたのです。そのような場合、抜歯をしないと隣の歯にも歯周病が広がる可能性が出てきます。そうなると問題の歯のみならず隣の歯も将来的に歯周病が進行し、動揺してくることが予想されます。そのような場合、問題の歯を抜歯することで、隣の歯への歯周病の進行を防止する必要性があります。無理して残すことが、結果的に他の歯へも歯周病を波及させる結果となるのです。

このような場合、僕は患者さんには必ず現状を説明し、問題の歯を抜くということよりも、他の健康な歯を守るという意味合いを強調します。被害を最小限に食い止めるために抜歯をするということを説明するわけです。抜歯することは誰しも直ぐには受け入れられないもの。患者さん自身、問題のある歯に目が行きがちですが、抜歯の目的が他の歯を守るためにということで患者さんの視点を少しでも広く持ってもらうようにすることが、抜歯の理解に繋がるのではないかと僕は考えます。

そうは言っても、抜歯の最終決定権は患者さんにあります。歯医者が抜歯の必要性を根気強く説明しても、抜歯を拒否される方もいるものです。そのような場合、僕は敢えて抜歯はしません。将来を考えると、問題のある歯のみならず口全体に悪影響が出ることはわかっていながらも患者さんの意思が抜歯を望まないのなら、それは仕方のないことだと思うからです。今後、当該歯のみならず他の歯にも問題が生じてきたとしても、それは仕方のないことだと諦めます。

実際のところ、問題のある歯を敢えて残すことで、後に後悔をされている患者さんの割合は結構な割合でいるものです。

「『だからあの時、早く抜歯をしましょう』と言ったのに、今頃後悔してもなあ」
と、歯医者としての本音を言いたくなってしまうことが多いですね。


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