| 2007年08月10日(金) |
忍び寄る魔の手 痛みの無いむし歯 |
「最近、奥歯の歯と歯の間に食べかすがよく溜まるので診てほしいのです。」
そう言ってうちの歯科医院に来院されたのはHさん。以前は何もなかったのに、ここ数週間、食事をすると食べかすが溜まるそうで、その都度楊枝で食べかすを取り除いているのだとか。 “これは何かあるのではないか?”そう感じたHさんは、うちの歯科医院に来院されたのです。
Hさんの口の中を診てみると、確かに右上の奥歯の歯と歯の間に食べかすが挟まっていました。どうして食べかすがはさまっているのか?注意深く挟まっていた食べかすを取り除くと原因がわかりました。それは奥歯の歯と歯の間に大きな穴、すなわち、むし歯があったからです。歯の内部に大きく広がっているむし歯でした。 僕は直ちにレントゲン写真を撮影してみました。通常、Hさんのような大きなむし歯であれば何かしらの症状があってしかるべきだからです。歯がしみたり、痛みを感じたりすることがあるはずなのですが、Hさんに確認したところ、全くそのような症状は無かったとのこと。 レントゲン写真を撮影すると、その謎は解けました。それは、奥歯は神経の治療が施されていたからです。奥歯の咬み合せの面にはレジンと呼ばれるプラスチック製の白い詰め物も詰めてありました。Hさんに尋ねてみたところ、数年前に奥歯がしみるということで別の歯科医院で神経の処置を受けたようなのです。
かつて歯医者ではない知人がこんなことを言っていました。
「歯に神経がなければどんなにいいだろう。歯に神経があるから痛みを感じるし、むし歯ができて歯を削る時にも痛みが生じるから。」 そんな知人に僕は答えました。
「神経があるから歯は助かっているんだよ。神経というとどうも痛みを感じて嫌なイメージがあるけども、歯にとっては実に有難いものなんだよ。神経があることによって痛みを感じるということは、歯に何か異常があることを体に知らせているのだよ。痛みというのは体に異常がある警告信号のようなものなんだ。痛みがあることにより、人間は体の異常を察知し、何らかの手当てをしようとするわけだ。ところが、痛みを感じないようになったらどうだろう?一見すると痛みから解放されるように思いがちだけど、体に異常が起こった場合、何も気がつかないリスクが生じるんだよ。気がついた時には手遅れなんてことがありうるんだ。歯に神経があるということは非常に有意義なことなんだね。」
今回のHさんのようなケースは有る意味、幸運なケースだったいえるでしょう。痛み以外に歯と歯の間に食べかすが溜まりやすいという状態が感じられたために、何らかの異常が歯にあるのではないかと思われたからです。ところが、この場合も、歯の神経が生きていれば、歯に痛みが生じることにより歯に異常があることがわかったはずなのです。ところが、かつてHさんは神経の処置を受け、歯に神経が無い状態でした。そのため、歯と歯の間のむし歯が大きくなっても痛みを感じないために気がつかなかったのです。
僕は直ちにHさんのむし歯を治療し、並行して歯磨き指導を行いました。その際も、歯の神経の治療した歯の歯磨きの大切さ、定期検診の重要性を何度も伝えたつもりです。
神経の処置をした歯というのは、健康な歯よりもむし歯や歯周病といった歯の病気に罹るリスクが高くなると言えるでしょう。痛みを感じないために歯の異常を察知できないリスクです。もし、以前に神経の治療を受けた経験がある人ならば、定期的に専門家である歯医者の検診を受けられることをお勧めします。忍び寄る魔の手はすぐそこまで来ているかもしれませんからね。
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