2007年07月17日(火) |
心臓ペースメーカーとiPod |
昨日、新潟県中越沖地震が発生し、多数の死傷者が出ているようです。家屋や道路の倒壊、鉄道への被害、原子力発電所の火災や放射性物質を含んだ冷却水が漏れるなど、社会インフラにも相当の被害が出ている模様。 僕自身、今から12年前に発生した阪神淡路大震災を経験しました。地震の揺れの恐怖、被害の甚大さについては身にしみております。被害に遭われた方には謹んでお見舞い申し上げます。そして、少しでも早く被害から立ち直られることを祈念してなりません。
さて、皆さんご存知のことと思いますが、心臓は体の隅々まで血液を循環させる臓器です。胸に手を当てると“ドク、ドク、ドク・・・”と音がしていますが。健康な人の場合、心臓は常に一定のリズムで血液を体中へ送っています。脈を触れると一定に時間で触れたり触れなかったりしますが、これがまさに心臓が収縮を繰り返している証拠です。
この心臓ですが、何らかの原因があり一定のリズムで血液を送れない場合があります。脈を触れてみると脈が一定のリズムで触れなかったり、脈が跳ぶような状態になります。このような一定リズムで心臓が収縮を繰り返さない状態を不整脈といいます。 僕は循環器の専門家ではありませんから詳しい話は書けませんが、薬の治療により不整脈の改善が見込めない人が少なからずいます。放置すると命に関わるリスクが生じます。そのような方の場合、人工的に心臓が脈を打てるような処置が必要となります。心臓が一定のリズムで脈を打てるように電気的刺激を与える装置のことを心臓ペースメーカーが必要となるのです。
現在、心臓ペースメーカーを装着した人は少なからずいらっしゃいます。専門家の話によれば、日本全国に心臓ペースメーカーを装着している人の数は数十万人いるそうで、毎年2万5千人近いペースで増え続けているのだとか。 これくらい心臓ペースメーカーの装着者がいるということは、歯科医院にも心臓ペースメーカーを装着した患者さんが来院される機会があるということです。僕が治療をしている患者さんにも心臓ペースメーカーを装着した患者さんがおられます。
心臓ペースペーカーを装着した患者さんの場合、歯科治療の際、最も注意しないといけないことは、電気を用いた治療装置を使用することができないことです。歯科治療において電気を用いた器具としてはどのようなものがあるかといいますと、電気メス、根管長測定器、電気歯髄診断器、イオン導入器、マイオモニターなどがありますが、これら装置は体に微量ながらも電気を通す、通電する装置ばかりです。これら装置¥を心臓ペースメーカーを装着している患者さんに用いると、心臓ペースメーカーが誤作動を起す可能性があります。心臓ペースメーカーを装着している人にとって心臓ペースメーカーが誤作動を起すということは非常事態です。最悪の場合、死に至ることも考えられます。歯科治療によって心臓ペースメーカーに誤作動を起すようなことは絶対に避けないといけません。
僕は神経の治療をする際、必ずといっていいほど、根管長測定器を使用します。これは、神経の治療を行う際には非常に重宝する測定機器であるわけですが、心臓ペースメーカーを装着している人の場合は使用を控えます。そのため、健康な方の場合の神経の治療よりも慎重に治療を行っていく必要があり手間隙がかかりますが、心臓ペースメーカー装着者の治療リスクを考えると、仕方のないことだと考えます。 また、心臓ペースメーカー装着者の治療の際には、僕は常に心電図とパルスオキシメーターといって、血液中の酸素濃度と脈拍を測定する装置を使用して患者さんの循環状態を監視しながら治療しています。
よく医療機関や電車などの交通機関の中で携帯電話の使用を控えるように言われていますが、その理由の一つが心臓ペースメーカー装着者の心臓ペースメーカーが誤作動を起す可能性があるからでした。最近の携帯電話では心臓ペースメーカーの誤作動に対する可能性が低くなってきているようですが、最近、ある医学雑誌を読んでいると携帯電話以外にも心臓ペースメーカーに誤作動を起す携帯装置があるという興味深い記事が掲載されていました。
その携帯装置とはiPod。かつて携帯して音楽を聴く装置の代名詞はウォークマンですが、ここ数年、ウォークマンになり代わり世界中に普及してきたのがiPodであることは誰もが否定しない事実でしょう。電車に乗っていると若者を中心にiPodで音楽を聴いている人を見かけるようになってきました。何を隠そう、僕もiPodを持っており、車の中で音楽を楽しんでいる輩の一人なのですが、このiPodが心臓ペースメーカーに対し支障を与える可能性があるという報告があったのです。 記事によると、心臓ペースメーカー100人の装着者に対し、iPodを心臓ペースメーカーを装着している部位から約5センチの位置に近づけ、影響を見たというのです。iPodを再生したままの状態とオンオフを繰り返す二通りを延べ800回行ったところ、2割〜3割の心臓ペースメーカー装着者の心臓ペースメーカーで障害が出たというのです。特に、第3世代と呼ばれるiPodで最も障害が多く、第4世代のiPodが続き、現行のモデルの初期型になる第5世代のiPodとiPod Nanoではほとんど障害が出ないとのこと。
研究者の話では、一般的な心臓ペースメーカーの装着者はiPodを利用していないが、しばしばiPodの愛用者である子供や孫、若者との接触があることから、今後更なる研究が必要であるとのこと。
心臓ペースメーカーもiPodも、立場こそ違え、科学技術の進歩の結果により得られた装置でありますが、おそらく、iPodの開発者は事前に心臓ペースメーカーに対する悪影響を想定していなかったことでしょう。科学技術の進歩は人々に様々な恩恵を与えてきている反面、思いもよらない結果を引き起こす可能性もあるものなのですね。科学技術の進歩を一方的に喜んでばかりもいられない、難しい時代になってきているものだと感じた、歯医者そうさんでした。
|