2007年07月12日(木) |
歯痛は焼酎では治りません! |
僕も経験があるのですが、歯痛というのは一度起こると非常につらいもので、少しでも早く歯痛から解放されたいと願う気持ちはよくわかります。けれども、いくら何でも焼酎で歯痛を抑えようとするのは如何なものでしょうか?
昨日、このようなニュースが報じられていました。
7月11日、鹿児島県錦江町議会の副議長が道路交通法違反(酒気帯び運転)の疑いで、鹿児島県警に摘発されていたことがわかったとのこと。この副議長は、7月1日午前10時ごろ、歯痛を治めるために焼酎でうがいをし、その後水で口をすすいでから軽トラックで近くの畑に向かっていたとのこと。その際シートベルトをしていなかったため、巡回中の警察官に止められた際、呼気からアルコールが検出されたというのです。
何とも呆れたニュースとしかいいようがありません。この本当に歯痛を治めるために焼酎でうがいをしたのか、別の目的でうがいをしたのかは定かではありませんが、歯医者として考えるに、歯痛を抑えるための焼酎によるうがいは全く意味がないように思います。
この副議長はどうして歯痛を抑えるために焼酎でうがいをしたのでしょう?一種の消毒薬の代わりにうがいをしたのでしょうか? 焼酎は酒の一種です。酒というのはエチルアルコールであるはずです。このエチルアルコールは消毒用アルコールそのものなのですが、通常、消毒用に使用されるエチルアルコールの濃度は60%〜95%の範囲です。かなりの高濃度のエチルアルコール濃度です。調べてみるとポーランドのスピリタスという酒が96%、ラム酒の一部が75%のものがあるようですが、酒の中で消毒用アルコール程度の高濃度の酒はほとんど見当たらないのが現状です。 焼酎の場合、アルコール濃度は25%程度と言われています。ということは、焼酎を口に含んだとしてもその消毒効果は、アルコール濃度が少なすぎるために期待できないといえるでしょう。すなわち、焼酎による消毒は意味がないと言えるのです。
また、いくら少量の酒であったとしても、一度口の中に含んだ酒は口の中の粘膜から吸収されるもの。 狭心症の発作を起しやすい人は常にニトログリセリン成分を含んだ舌下錠を携帯し、狭心症の発作が起これば直ちに口の中に含むようにしているものですが、これは如何に口の中の粘膜から薬物が吸収されるかを物語っている証拠の一つです。酒の場合も同様で、ごくわずかな量であったとしても、一度口の中に含んでしまえば血中にアルコールが入ってしまうのです。そうなるとどうなるか?血中に吸収されたアルコールは交感神経を刺激し、血圧を上昇させ、血の流れが速くなるもの。歯痛の際、歯の神経(専門的には歯髄といいます)は炎症が起こり、痛みが生じているのですが、血の流れが速くなると歯の神経の炎症をさらに刺激する結果となります。すなわち、アルコールを口の中に含めば、結果的に歯痛が更に悪化することになりかねないのです。
ちなみに、僕は何らかの酒、アルコールを呑んで来院した患者さんの治療は行わないことにしています。治療に際し、血中にアルコールがある状態というのはそれだけでリスクがある状態です。歯科医院に来院した患者さんは正当な理由がない限り、どんな患者さんでも診療拒否することはできませんが、酒、アルコールを呑んで来院した患者さんの場合、診療を断ることは僕は正当な理由に当たると考えています。それくらい、酒、アルコールが体に与える影響は大きいものなのです。
鹿児島県錦江町議会の副議長は愚かなことをしたものです。結局のところ、歯痛はきちんと治療されたのでしょうか?詳細はわかりませんが、今後歯痛が起こるようなことがあれば、焼酎でうがいをせず、近くの歯科医院へ直行して欲しいものです。
|