2007年07月07日(土) |
病院内七夕コンサート |
七月も早いもので今日でもう七日が経過しました。よく考えてみれば、七月七日は七夕です。天の川を挟んで織姫と彦星が一年に一度出会うことが出来る日なのだそうですが、梅雨のシーズン真っ盛りの今日この頃、天の川を見ることはできるでしょうか?
さて、七夕ということで思い出したことがあります。今から10年前のことです。僕はある地方のY病院の歯科へ赴任し、勤務しておりました。赴任したばかりの頃、僕は医局の机の近くにいるある先生から突然声を掛けられました。
「先生、七夕コンサートに参加してみない?」
一体何のことなのか全くわかりませんでした。声を掛けてきたK先生曰く
「うちの病院では毎年七夕に近い、外来診療の無い土曜日に院内に入院している人を病院の大会議室に招いてコンサートをするんですよ。毎年、いくつかのグループがいろんな楽器や歌で院内に長期入院している人を励ます意味で演奏をするのです。私自身、学生時代に合唱をしていまして、毎年七夕コンサートでは病院内の先生やスタッフを集めて、何曲か合唱しているんですけど、先生も興味があれば参加してほしいと思って声を掛けたわけです。」
神経内科医であったK先生は、長期入院をしている患者さんも数多く受け持っていたのですが、長期入院している患者さんが精神的に不安定になりやすいことに悩んでいたのだとか。何とか精神的に安定してもらうような手立てはないものか?他の院内の先生にも話をしたところ、自分と同じように病院に長期入院している患者さんについてK先生と同じような悩みを持っている先生が多数いることがわかったそうで、そんな仲間と一緒に何か長期入院している患者さんを励ますことができないかどうか、考えていたそうです。 そこで思いついたアイデアが音楽で長期入院患者さんの心を少しでも和ませてあげたいということでした。K先生は大学生時代、合唱に熱中していた時期があったそうですが、院内の医者の中にK先生と同じように合唱が好きだった先生が複数おり、自分を含めた音楽好き医者が音頭を取ってはじめたのが院内七夕コンサートだったそうです。
七夕コンサートを始めた頃はこじんまりとしていた催し物だったそうですが、回数を重ねるとともに病院内での評判、評価が高まり、音楽に関心が薄かった病院長も七夕コンサートに注目するようになったのだとか。 K先生は病院長にもいろいろと七夕コンサートに関する協力を求め、病院長もいろいろと力を貸してくれるようになったのだそうです。
その中でも特筆すべきことは、購入したピアノだったとのこと。 当初、K先生はコンサート用のピアノが必要だと思い、中古のピアノでも購入できないかと考えていたそうです。そこで、病院長に直談判しようとしたのですが、同じ同士の一人が冗談で
「同じピアノを購入するならスタインウェイのグランドピアノを購入できないか当たってみましょうよ。だめもとですから。」
スタインウェイのグランドピアノ。世界中で活躍するプロのピアニストの中でも最も人気のあるピアノがスタインウェイですが、品質の高さだけでなく値段も中途半端な高さではありません。そんなピアノを購入するように病院長に交渉するなんて無謀。スタインウェイのピアノを知っている者であれば誰もがそう思うはずですが、結果は
「レントゲンCT装置よりも安いね。」
病院長の鶴の一声で何とスタインウェイのグランドピアノを購入したというのです。当時、多くの病院が赤字で苦しんでいる中、Y病院は数少ない黒字経営病院だったのです。黒字経営にしたのは病院長の経営手腕のせいだったわけですが、病院長の思い切った決断により、というよりも病院長のスタインウェイに対する無知が故の決断だったかもしれませんが、Y病院にはスタインウェイのピアノが置かれたのです。
僕が参加した七夕コンサートでもスタインウェイのピアノが使われたのはいうまでもありません。僕が参加した七夕コンサートも当然のことながらスタインウェイのピアノの伴奏や演奏に使われていたのは言うまでもありません。
実際に参加してみて気がついたのは、観客として演奏を聞いている患者さんの顔が生き生きとしていたことです。患者さんの中には自分で歩くことができず車椅子で会場に来ていた患者さんや人工呼吸器を装着したままの患者さん、中にはベッドに寝たまま会場に演奏を聴きに来ていた患者さんがいたのですが、誰もが演奏に熱心に聞き入り、中には小声ながらも自分で歌いだす患者さんもいたくらいでした。演奏の出来は決して上手いとはいえないものでしたが、心をこめて奏でた音楽の演奏は確実に入院患者さんに伝わったように思えました。会場全体を包んでいる空気が実に温かかった。こんな状態を僕は経験してこなかっただけに、非常に新鮮な驚き、感動として僕として僕としても貴重な体験をさせてもらったと思っています。
Y病院を辞した今でも当時声を掛けて頂いたK先生とは時々やり取りをしているのですが、今年は七夕である今日が七夕コンサートだとのこと。まさしく七夕の七夕コンサートです。遠い土地からではありますが、今年の七夕コンサートの成功を祈っております。
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