外部から閉鎖された空間に何か異臭を感じた時、不安に感じる人が多いのではないでしょうか?今から12年前の地下鉄サリン事件では、何か異臭を感じる否や多くの人が次々と倒れ、尊い命が多数奪われたことは記憶に新しいところです。普段感じないような特殊な異臭というのは何がしかの異常事態があると考えていいのではないでしょうか? 昨日もこのようなニュースが流れていました。
1日午前8時ごろ、JR神戸線の播州赤穂発近江今津行き新快速が西明石駅(兵庫県明石市)を発車後、乗客から「車内に汚物が散乱している」と運転士に連絡があったとのこと。次の停車駅の明石駅で駅員らが確認すると、2両目から6両目にわたって大便とみられる汚物が落ちていた。駅員らが同駅で除去して運転を再開したが、車内の異臭が消えず、神戸駅で運転を取りやめたのだとか。
誰でも経験あることだとは思いますが、公衆トイレを利用した際、先に入っていた人が大便をした後にトイレに入った後の臭さというのは非常に異様で耐えられないものです。自分も大便、小便をしないといけませんから我慢せざるをえないのですが、それにしても、トイレという閉鎖された空間で他人の大便の臭いを嗅がされるというのは、いつまで経っても慣れません。
このようなことを考えると、介護現場で下の世話をしているホームヘルパーをはじめとした介護施設の人は立派だと思います。自分でトイレに行けなくなった、動けなくなった人の大便、小便をきれいに拭き取り、清潔にする行為というのは見た目以上に労力が要ります。しかも、身内ではない全くのあかの他人の下の世話をするというのは、いくら仕事だとはいってもつらい仕事なのではないかと思います。それ故、僕はもっと介護現場で働く人たちには労力に見合った報酬が出ないものかと思うのですが、介護現場に対する公的な評価が随分低く見られているように思えてなりません。
さて、歯科医院で治療をされた経験のある方はわかるとは思いますが、歯科医院においても独特のにおいがあるものです。歯科医院での治療では、非常に多くの目に見えない粉塵が舞いあがっています。歯や入れ歯の切削粉塵やセメントや印象材の粉、各種消毒液や薬品のにおいが充満しているものです。最近では空気清浄機を導入している歯科医院も多くはなってきていますが、それでも歯科医院の独特のにおいが歯科医院を敬遠させる一つの要因になっているのは事実でしょう。
ただし、長年、歯科医院で仕事をしていると歯科医院のにおいには慣れてくるというか順応してくるものです。患者さんにとっては普段臭わない異臭であったとしても、その場で長時間仕事をしている者にとってみればそれが当たり前のにおいになってしまうものなのです。
ところが、先週、うちの歯科医院では普段におわない異臭が室内を充満していたのです。
うちの歯科医院は自宅開業です。すなわち、自宅の隣に歯科医院の診療所があるわけですが、いつも僕は起床すると、歯科医院の方へ出向き、玄関のシャッターを開け、歯科医院内の各種機械類の電源スイッチをオンにしていきます。それと同時に何か異常がないか点検していくのが日課なのです。
先週のある朝のことでした。いつものように歯科医院のシャッターを開け、玄関の入り口に入るや否や、僕は“アレッ!”と感じました。何か強烈な異臭がするのです。何か野菜が腐ったかのような異臭です。歯科医院には歯科医院の独特のにおいがありますが、少なくとも野菜が腐ったかのような異臭は普段感じないものです。僕は、直ちに歯科医院内の窓を開け、換気に務めました。空気清浄機も動かしながら異臭がどこから臭うのか探っていたのです。 ところが、異臭がどこから漂うのかなかなかわかりません。
“困ったことになった!“ 僕は直ちに自宅に戻り、家族に異臭のことを話しました。
「診療所の中で野菜が腐ったような臭いが充満しているよ。」
それを聞いたお袋が即座に答えました。
「もしかしたら、そのにおいはこれじゃない?」
そう言って、お袋が台所の隣の部屋から取ってきたものを見て僕は納得しました。 それは、らっきょうでした。
「昨日、親戚の人にらっきょうをもらったんだけど、一時的に診療室と家との境目の部屋に置いたまま一晩放置してしまったのよ。今朝起きてそのことに気がつき、直ちに自宅の物置の方へ保管したんだけど、らっきょうのにおいが一晩かけて診療所の中に充満したんだね。」
らっきょうを朝早くに移動させ、異臭の元が取り除かれたこと、その後、充分に換気をしたことで診療が開始される頃にはらっきょうのにおいは完全に消えていました。後から歯科医院にやって来たスタッフにも確認し、何とからっきょうのにおいが完全に消えていることを確認。
それにしても、歯科医院の異臭の原因がらっきょうとは?後から考えれば、体に毒性のあるものではなくて良かったと思う反面、決して多くの人に好まれるにおいではないことは確か。 らっきょうのにおいが充満していた診療室内では、まともな診療が出来なかったなあと反省しきりの歯医者そうさんでした。
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