歯医者さんの一服
歯医者さんの一服日記

2007年06月13日(水) 数字のトリック、グラフのマジック

先日、僕は嫁さんと一緒に近所のスーパーに出かけたのですが、スーパーに入る際、入り口に掲げてあったポスターのキャッチコピーに視線が行きました。

もう7割、まだ7割

これは何のキャッチコピーかといいますと、スーパーの利用客の7割がマイバッグを利用しているという意味のキャッチコピーです。
最近、全国のスーパーではマイバッグを持参しようというキャンペーンが広がっているようです。資源の無駄使いを止めたり、環境を考えようというキャンペーンの一環です。僕がよく利用するスーパーでも同様のキャンペーンが行われていて、マイバッグを持参する人が増えているようです。我が家でもマイバッグを持参し、買物をしているくらいです。スーパーで全て買物袋が有料化されたこともあるのかもしれませんが、以前のようにスーパーの買物袋を常に利用するようなことはしなくなっています。その結果、スーパー利用者の7割がマイバッグを持参するようになったというのです。

この数字、以前から考えれば大きな進歩だと思うのですが、その一方で違った見方も出来ます。まだ7割しかマイバッグを利用していないという見方です。
スーパー利用者の7割がマイバッグを利用している事実は変わらないのですが、物の言い方の違いにより、“7割も利用している”というニュアンスと“7割しか利用していない”というニュアンスとも受け取ることができるのです。スーパーの入り口に掲げてあったポスターは、そのことを巧みにつき、もっと多くの利用者にマイバッグを利用してもらおうという意図のポスターのように思えました。

このように、同じ数字でも表現の仕方、見方の違いによって正反対に受け取ることができることがあるものです。最近、僕の歯医者の友人から聞いた話です。

友人はある市の小学校の学校歯科医をしているのですが、ある夜、地元歯科医師会の先生から呼び止められたというのです。

「君が学校歯科医をしている小学校の歯肉の状態が良くないと地元市の関係者から話を聞いたのだけど、一体どうなっているんだ。」

友人が学校歯科医を担当している地区の市では、地元歯科医師会の先生がそれぞれ小学校の学校歯科医を担当しています。毎年、今頃の季節、全国の学校では、定期健康診断があり、その中に定期歯科検診も行われます。友人のいる市も例外ではなく、友人も学校歯科医として自分の小学校の歯科検診を担当しています。歯科検診終了後、友人の市では、市内の全部の小学校のデータが検診終了後集計され、市内の小学校生徒たちの歯の健康状態が調べられ、結果は、歯科医師会にも報告されるのです。
その結果を見た、地元歯科医師会の先生の一人が、友人が学校歯科医をしている小学校の歯肉検査結果が他の小学校に比べ、悪いということを言ってきたのです。

友人にとっては寝耳に水の話でした。確かに決して友人が学校歯科医をしている小学校の歯肉検査が市内の小学校で最も芳しいものであるとは言いきれないのですが、それにしても突出してよく無いと言われるとは思いもしなかったというのです。
疑問に感じた友人は、地元歯科医師会の先生にデータを見せてもらうようにお願いし、データを見せてもらったそうです。
そのデータにはこのようなものでした。市内には数多くの小学校がありますが、今回は話をわかりやすくするために4つの学校分だけのデータを出します。

歯肉の異常所見のある生徒の割合
A小学校  10%
B小学校  20%
C小学校  8%
D小学校  12%

友人が地元歯科医師会の先生から見せてもらったデータはこの数字をグラフ化したもので、下のようなものだったそうです。縦軸は歯肉の異常所見のある生徒の割合をパーセントで記しており、横軸はそれぞれの小学校を示します。ちなみに、友人が学校歯科医をしているのはB小学校です。




この図からみると友人が学校歯科医を担当しているB小学校の異常者の数は他の小学校の比べ悪いように思えます。

ところが、縦軸の最高を100%にすればどうでしょう?




また、歯肉の異常所見の無い者の割合でグラフ化してみるとどうでしょう?
すなわち、
A小学校  90%
B小学校  80%
C小学校  92%
D小学校  88%
ということです。




確かにB小学校の成績は良いものとは言えませんが、一番上のグラフを見れば最も悪いように見えるものの、二番目や三番目のグラフを見てみると、印象はそれほど著明に悪いようには見えません。しかも、これらグラフは全く同じデータを意味しています。

友人曰く

「数字のトリックというのかな、グラフのマジックというのかな、同じデータであっても表現の仕方で随分の人の見方って変わるものだということを痛感したよ。このことは世の中のいろんな調査結果においても言えることじゃないかな。一見すると大変なように思えるデータも、違った視点で見てみると全く異なった解釈がなされることが多いと思う。中には意図的にあるデータを強調したいがために表現の仕方を誇張しているものもあると思うよ。数字やグラフって客観的な物のように思うけど、意外に主観的なものかもしれないな。」


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