医療の世界には、かつてなら死病だと言われていた病に原因を発見し、治療法が見つかったという例が数多くあります。数多くの感染症などはその最たる例でしょう。歯科の世界でもそうで、むし歯や歯周病はそれぞれある種のばい菌が原因である感染症であることが明らかにされ、しっかりと対策を講ずれば予防が可能となってきています。 その一方で、医療の世界では、多くの研究成果があがり、技術進歩があったとしても、まだ原因さえ明らかになっていないことがあるものです。数多くのガンなどはそうで、原因さえ特定されていないものがほとんどです。 歯科の世界においてもまだ原因が特定されていないことがあります。その一つが歯ぎしりです。
歯ぎしりを知らない人はいないでしょう。歯を食いしばったり、何度も噛み合わせたり、歯をすり合わせたりすることの総称です。誰もが一度や二度は経験したことがある生理現象の一つですが、これがどうして起こるのかまだ解明されていないのです。
全く手をこまねいてきたわけではありません。過去から現在に至るまで多くの研究者が歯ぎしりについて研究してきました。どうも精神的なストレスを感じた時に歯ぎしりが起きるであろうというところまではわかっているようなのですが、はっきりとしたメカニズムは未だに解明されていません。 これまで薬による治療法や心理療法なども行われていますが、原因が不明である以上、これら治療法が功を奏しているようには思えません。個人的には、歯ぎしりのメカニズムを解明すれば、その研究成果はノーベル賞級のものではないかと思うくらいです。
歯ぎしりはほぼ全ての年代で起こります。幼児から高齢者に至るまで全ての年代で歯ぎしりは起きるのです。歯ぎしりのひどい人は、歯の噛み合わせの面が磨り減り、元来凹凸があった歯の表面がまっ平になっています。歯の表面はダイヤモンド並みに硬い組織であるはずなのですが、それがまっ平になるということはそれくらい歯ぎしりの力が強く作用している証拠です。
歯医者にとって、患者さんの歯ぎしりは悩みの種の一つです。せっかく歯医者が精密な被せ歯や差し歯、入れ歯、インプラント治療を行ったとしても、無意識のうちに歯ぎしりをされると、台無しになってしまうことが多いからです。 ところが、歯ぎしりのメカニズム、原因が解明されていないということは、原因療法もわかっていないということです。 それ故、歯ぎしりは歯医者にとっても頭痛の種の一つなのです。
ただ、患者さんに歯ぎしりがあったとしても、歯医者が何も対策を講じてこないわけではありません。歯ぎしりに対しては対症療法を行うのが普通です。
具体的には、睡眠時にスプリントと呼ばれるプレートのようなものや、マウスガードを装着してもらい、歯ぎしりしても直接歯と歯が擦れ合わないようにします。歯ぎしりが生じても、歯に影響を与えないようにするための工夫です。
歯医者としては、今後の歯ぎしり研究の進展を期待したいところです。歯ぎしりがどうして起こるかそのメカニズムが解明されれば、自ずと根本治療の道は開けると思うのですが。 歯ぎしりは歯医者にとって頭の痛い問題です。思わず歯ぎしりしたくなってしまいます・・・。
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