歯医者さんの一服
歯医者さんの一服日記

2007年06月08日(金) うちの歯科医院 閉院します

昨夜、地元歯科医師会の会合があり出席してきたのですが、いつもながら会合の合間に何人かの先生と話をしました。話題の中心は歯科医院の経営のこと。

昨今、むし歯の数が減少してきたことは各種調査が証明しているのですが、国民全体の健康福祉の面から言えば好ましい傾向であるものの、歯科医院の経営にとっては厳しいものがあるなあという認識で一致しました。以前であれば5月、6月の時期というのは歯科医院の経営にとっては稼ぎ時でありました。全国各地の学校では6月末までに定期歯科検診が行われ、治療勧告書が出た児童、生徒たちはこぞってかかりつけの歯科医院を訪ね、むし歯治療を受けたものです。むし歯が蔓延していた時期では、この時期多くの児童、生徒で歯科医院はごった返していたものですが、その分、歯科医院にとっては収入アップにつながっていた時期でもあったのです。ところが、むし歯の数が減少してくると、治療勧告書が出ない児童、生徒が増えるということになります。ということは、学校の定期歯科検診によって歯科医院を受診する児童、生徒の数も自ずと少なくなるということになります。全国の児童、生徒のむし歯の数はここ10年間の間でも半減しています。親御さんの口の中の衛生に対する関心が高くなった証拠でもあり、好ましいことではあるのですが、歯科医院の経営を考えると厳しいものがあると言わざるをえません。

上記のような話をしていると、話に参加していたT先生がいきなり下のようなことを言われたのです。

「今月をもってうちの歯科医院を閉院します。」

話に加わっていた先生は一同全員驚きました。突然、何の前触れもなく自分の歯科医院の閉院を宣言するとは一体どういうことだろう?何か特別な事情があるのだろうか?通常、歯科医院を閉院する際には何がしかの噂が流れてくるものですが、T先生の歯科医院は多くの患者さんが来院し、歯科医院を閉院するような雰囲気ではなかっただけに、T先生の発言の意外さに驚いたのです。

「閉院といっても実際に閉院するわけじゃありませんよ。あくまでも書類上の話ですから。皆さん、そんなに驚かないで下さいよ。」

T先生のその後の話を聞いて納得しました。T先生はあるビルのテナントで開業していたのですが、そのテナントそのものが古くなったこと、近所に好ましい物件を見つけたことから歯科医院を移転させようとしたのです。このような場合、実際には近くの健康福祉事務所に届けを出さないといけないのですが、新しく移転する場合、実際は閉院しなくても書類上は診療所廃止届書を出し、新たに診療所開設届書を提出しないといけないのです。どうしてこのようなことになっているかと言いますと、一度提出した診療所開設届書に何らかの変更があった場合、修正が認められないことになっているからなのです。

実は、数年前、僕は父親から歯科医院の院長となったのですが、その際も父親が院長である自院の診療所廃止届書と僕が院長である診療書開設届書を同時に近くの健康福祉事務所に提出しました。実際のうちの歯科医院は何ら閉院してはいなかったのですが、書類上は一度閉院して、新しく歯科医院を開院していたのです。

T先生の場合もそうでした。自分の歯科医院を移転する場合、かつて提出した診療所開設届書の住所が変わります。その際、診療所開設届書の住所の変更届けだけではだめで、一端閉院手続きを取り、新たに歯科医院を開設する診療所開設届書を提出しないとだめだったのです。そこでT先生は、我々に自分の歯科医院が閉院することを伝えたわけです。

住所の一部を変更したり、開設者が変更になった場合、かつて提出した診療所開設届書を一部変更すれば済むだけの話のように思うのですが、どうもお役所はそのようなことを認めないようで、オールオアナッシングではないですが、変更があれば閉院しろと言うのです。そこまで大げさにしなくてもというのが正直なところですが、お役所の指導を受ける我々開業医は従わざるをえません。そうしないとお飯の食い上げなってしまいますから。


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