2007年06月06日(水) |
毒入り中国製歯磨剤についての一考察 |
昨今、アメリカで販売されていた中国製の歯磨剤の中にジエチレングリコールが混入していたそうで、アメリカ食品医薬品局では、該当する中国製歯磨剤を回収するように命令を出したというニュースが流れていました。かねてから中国製品の質の悪さが健康に悪影響を与える事件が後を絶ちませんが、今回のようなニュースを知ると、中国歯磨剤製造メーカーがやったことは、“安かろう、悪かろう、危なかろう”とでも言いたくなるような不始末です。 今回問題となった歯磨剤ですが、歯医者として僕は、どうして、中国の製造メーカーがこのような不始末を仕出かしてしまったのか考えてみました。
その前に、皆さんに知ってもらいたいことがあります。それは、歯磨剤の正体についてです。一言で歯磨剤といいますが、歯磨剤とは一体どんなものなのでしょう? 歯磨時に使用するペースト状のものであることは容易に想像できると思うのですが、歯磨剤の正体をご存知の方は数少ないはずです。
歯磨剤は、薬事法という法律によって化粧品、または、医薬部外品に分類されます。 化粧品としての歯磨剤というと何となくイメージが結びつかないかもしれません。けれども、歯の汚れや歯垢を取り除くという効能を考えると、まさしく歯磨剤は化粧品に分類されるのです。石鹸と同様の扱いなのです。この歯磨剤になんらかの薬理作用、生化学的作用をもつ成分を加えた歯磨剤は医薬部外品としての扱いを受けます。よくフッ素入りは磨きとか知覚過敏抑制とかいう文句がついて売り出されている歯磨剤がこの医薬部外品に相当します。
それでは、歯磨剤にはどんな成分が含まれているのでしょう?歯磨剤の製造販売会社によって若干の差はあるのですが、基本成分はほぼ同じで、以下のものから成っています。
研磨剤、保湿剤、発泡剤、結合剤、香味剤、保存料、着色剤、薬用成分
研磨剤とは歯磨剤の主体であり、歯に付着した歯垢や色素を取り除くものです。リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、二酸化ケイ素などが相当します。
保湿剤とは歯磨剤の湿り気とクリーム状の形を与えるものです。ソルビトール、プロピレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコールなどが使われます。
結合剤とは粉末と液体成分との分離を防ぎ、薄い濃度で強い粘り気を出す材料です。カルボキシセルロースナトリウム、カラギーナンなどが相当します。
発泡剤とは、呼んで字の如く、歯磨時に多量の泡を発生させる成分です。界面活性作用により多量の泡を発生させ、歯磨剤を拡散しやすくさせ、歯の汚れを剥離し、除去しやすくさせる材料です。ラウリル硫酸ナトリウム等があります。
香味剤とは、一種の香料や甘味剤のことです。歯磨剤使用時に使用後に爽快感、快適さを引き出すために加えられています。 香料としてはペパーミント、スペアミント、シナモンなど、甘味剤としてはサッカリンナトリウムなどがあります。
保存料とは、湿潤剤や結合剤の中に微生物やカビの影響を受けるものがあるため、これらの影響を阻害する目的で加えられている材料です。安息香酸ナトリウム、パラベンなどがあります。
薬用成分とはむし歯予防や歯周病予防を期待する薬理作用、生化学作用をもった成分のことです。例えば、むし歯予防のためにはフッ素成分を含んだフッ化ナトリウム、酵素の作用を阻害するデキストラナーゼ、歯周病予防のためのヒノキチオール、トラネキサム酸などがあります。
以上のような成分の合剤が歯磨剤なのです。
多くの成分の合剤である歯磨剤ですが、歯磨時においては脇役に過ぎません。歯磨は歯に付着した歯垢や汚れ、色素を取り除くことですが、このことは歯ブラシを使用することで成り立ちます。歯ブラシを適切に使用すれば、歯垢や汚れ、色素は取り除くことができるのです。ある研究によれば、歯磨剤を使用しなくても歯垢は取り除くことができるという結果が出されています。歯医者の中でも歯磨時に歯磨剤を使用しないよう指導する人もいるくらいです。
よくテレビの宣伝で、歯磨剤を歯ブラシの毛先の端から端まで山盛りでつけているシーンがありますが、あれは量が多すぎます。歯磨剤製造メーカーによる戦略で、消費者に刷り込みことによりたくさん歯磨剤を使用してもらうようにするための宣伝に過ぎません。はブラシの四分の一から三分の一程度の量で充分です。 ちなみに、下の写真は某歯磨剤メーカーが歯医者向けに出している写真です。テレビの宣伝とは違うことがよくわかると思います。
さて、今日の本題に戻りますが、中国の歯磨剤製造メーカーがジエチレングリコールを混入された理由ですが、愚考するに保湿剤の一つであるポリエチレングリコールを入れるところを、誤ってジエチレングリコールを入れたのではないかと思うのです。
ポリエチレングリコールとジエチレングリコール
歯磨剤は上記のような多くの成分が含まれる合剤です。それ故、それぞれの成分の管理は厳密に行わないといけないはずですが、それが何かの手違いで誤ったものが混入してしまった。中でも保湿剤であるポリエチレングリコールを加えるべきところを誤って名前が似通っているジエチレングリコールを加えてしまった。 しかも、このミスが誰にも見つからず、チェックもなされないまま、製品化され、アメリカまで輸出されたと見るのは考え過ぎでしょうか。
いくら中国でも最初から毒物であるジエチレングリコールを敢えて意図的に歯磨剤に加えるようなことはしないのではないだろうか?それよりも製造工程で何かの人為的ミス、ケアレスミスが起こり、それが修正されないまま製品となり出荷されたのではないだろうかと思う、今日この頃です。
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