歯医者さんの一服
歯医者さんの一服日記

2007年05月24日(木) こんにゃくゼリーのど詰め事故について

昨日ニュースで流れていたこんにゃくゼリー窒息事故。7歳の幼児が食べた際、のどに詰まらせ窒息死してしまったという心痛む事故が起きてしまいました。

今回の事故に限りませんが、食べ物をのどに詰まらせ窒息してしまう事件というのはしばしば起きています。その代表例が餅ののど詰め事故でしょう。正月を中心に多い餅ののど詰め事故。高齢者が多いのが特徴で、お雑煮に入っている餅を食べている最中、のどに詰めてしまい、窒息してしまう事故が後を絶ちません。

どうして高齢者は餅をのどにつめてしまいやすいのでしょうか?
誰もがわかることですが、高齢者は、若い人と比べ様々な体力、反射が衰えてくるものです。食べ物を飲み込み反射(専門的には嚥下反射といいます)もそんな鈍くなる反射の一つです。ところが、高齢者の多くは自分の反射が鈍くなっている実感がありません。若い頃と同じように餅を飲み込んでいるつもりでも、実際の飲み込み反射は想像以上に衰えています。

また、高齢者の場合、歯を失っている方が多く、入れ歯を装着されている方が多いのが現状です。永久歯が残り少ない人や入れ歯を装着している方は、健康で丈夫な歯を持っている人に比べ、効率よく食べることができません。餅のように粘着性があり、噛み砕くことに時間を要する食べ物の場合はなおさらです。そうなると、ついつい充分に餅を噛まないまま飲み込んでしまうわけです。その結果はとなると・・・
餅をのどに詰めてしまうリスクが高くなることは容易に想像つくのではないでしょうか。

餅のような食べ物について、僕は食べることができる年齢を制限をすべきではないかと考えています。極論のように思われるかもしれません。高齢者の楽しみの一つは食事です。その食事の中の食材の一つを食べるなというのは酷ではないかと思われるかもしれませんが、毎年、繰り返される餅ののど詰め死亡事故の悲劇を無くすには、ここまで徹底しないと無くならないのではないかと考えます。

こんにゃくゼリーも餅と同じです。餅と同じように食べられる年齢を制限すべきだと思います。
こんにゃくゼリーを食べられた方ならわかると思いますが、こんにゃくゼリーは通常のゼリーと異なり、何度も噛まないと噛み砕くことができないくらい弾力性の、歯ごたえのある食感があります。そこがこんにゃくゼリーの人気のあるところではあるのですが、歯を多数失い、入れ歯を装着している高齢者や乳歯しかない幼児、永久歯と生え変わりつつある混合歯列期の小学生の場合はどうでしょう?健全な永久歯を持つ人と比べ、噛む力が弱く、咀嚼効率も劣ります。
子供が持っている乳歯は何本あるかご存知でしょうか?乳歯が全部生えそろうと20本です。それに対し、永久歯が全部生えそろうと、親知らずを含めれば32本です。
また、乳歯は永久歯に比べ大きさが小さいもの。ということは、実際に食べ物を噛むための歯の表面積を考えると、子供のものは大人のものよりもはるかに小さいことがわかります。すなわち、子供にいくらしっかり噛むように伝えたとしても、20本の乳歯しかない子供や永久歯と生え変わりつつある学童が大人と同じようにしっかり噛むには難しいところがあるのです。

今回の7歳児のこんにゃくゼリー窒息事故に関して、僕はこの生徒の口の中を見たわけではありませんが、まだ乳歯が多数残り、永久歯と生え変わっている最中の状態であることは確かです。

こんにゃくゼリーは意外に粘膜にくっつきやすい食材でもあります。飲み込んでいる最中、のどの粘膜に接触すると、くっついてしまう可能性があるのです。特に、食道と気管が枝分かれする咽頭でくっついてしまう非常に危険です。こんにゃくゼリーが気管を塞いでしまうようなことになるため、窒息の原因となります。こんにゃくゼリーは飲み込む時の食感が良いと言う人もいるようですが、これは危険と隣り合わせなのです。

こんにゃくゼリーはのどに詰まってしまうと、その物性上、背中をたたいたくらいではのどにひっかかったゼリーを取り除くことが困難です。専用の器具を口からのどに入れて取り除かなければいけない場合が多いのです。

これらのことを考えると、こんにゃくゼリーは、幼児や永久歯に生え変わっていない生徒、歯を多数失った大人や高齢者に食べるべきではないと思うのです。どうしても食べなければならないというのであれば、こんにゃくゼリーをのど詰めしないぐらい細かく砕いてから食べるような工夫が必要でしょう。

たかが食べ物かもしれませんが、幼児や永久歯と完全に生え変わっていない学童、歯を多く失い反射が鈍くなった高齢者の場合、食べ物によっては物性をよく考えながら食べないと死に至るリスクがあることを肝に銘じて欲しいと思います。


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