歯医者さんの一服
歯医者さんの一服日記

2007年05月04日(金) 患者様と患者さん

ゴールデンウィーク中、神妙な話を持ち出して申し訳ないのですが、何卒お付き合いの程を。

先日の某新聞の第三面を見ていると“患者様と呼ぶのを止めた”という内容の記事が掲載されていました。某有名病院では、数年前から患者さんに対して“患者様”と呼ぶようにしていたそうですが、患者さんからの評判がよくなかったこと、患者様と呼ぶことによって生じた医療スタッフに対するトラブルが頻発したこと等から患者さんのことを“患者様”と呼ばず“患者さん”と呼ぶようにしたというのです。

かつて、日本における医療の世界では、医者は絶対的な立場にありました。

“拠らしむべし、知らしむべからず。”

患者は医者の言うことをそのまま信じ、治療を受けなければならない。そういった雰囲気があったように思います。
ところが、昨今の患者意識、患者権利の高まりから患者側も医者の言うことを一方的に、鵜呑みするのではなく、自分の健康は自分で管理しなければならない。そのためには患者も積極的に治療に参加し、医療情報提供を積極的に求めるべきである。こういった動きが最近加速しています。

医療機関側にも事情があります。大都市部では、多くの医療機関が現在、患者さんを如何に確保するかということが経営上、頭の痛い問題となってきています。以前であれば、3時間待ち3分治療ということで世間から批判を浴びてきたものですが、最近では患者さんが病院を選ぶ時代になってきています。病院ランキング本などが多く出版され、病院の評価を医者がするのではなく、患者が行う時代。
こういった事情から、病院では患者さんをお客様として扱うようなところが増えてきたように思うのです。その流れの一つが“患者様”という言い方ではなかったのかと感じます。

僕は、患者のことは一貫して“患者さん”と呼んでいます。このサイト“歯医者さんの一服”日記でも、常に“患者さん”と表現していますし、今日の日記でもそうしています。“患者様”という呼び方はしておりません。これには理由があります。

僕は患者さんと医者というのは対等な立場であるという考えを持っています。本来ならば、自分の体に何か異常が起きた場合、自分の体を治療するのは患者さんであるべき。ところが、患者さんのほとんどは医学的知識が少なく、治療経験はありません。そんな患者さんに代わって患者さんの体の異常を治すのが医者の役目だと思うのです。患者さんの体の悪いところを患者さんに代わって治療する代行業みたいなものが医者だと思うのです。そのことを考えると、患者さんに関する医療情報は、基本的に患者さんに公開すべきであると考えます。

僕は普段の歯科診療においては、治療前に必ず患者さんに治療の説明を行い、納得してもらい、許可を得てから治療をするようにしています。治療後もその日の治療、これからの治療予定を話して理解を深めてもらっているつもりです。
場合によっては、僕が絶対にした方が良いという治療を提案しても、患者さんが絶対に納得せず、放置しているようなケースもあるくらいです。放置すれば更に悪くなるから早期の治療を患者さんに求めても患者さんが拒否されれば、治療はできない。僕自身、納得できないところがあるのですが、患者さんの意思が治療拒否であればそれは仕方がないことだと思っています。この問題は非常に難しい問題ではありますが・・・。

患者さんと医者が対等な立場であるということを考えれば、僕は患者さんに変に媚びへつらうことは無いと思うのです。医療はサービス業に含まれる産業であるとは思うのですが、自分の体の異常を治す特殊なサービス業です。決して“お客様は神様”的な考えで成り立つ産業ではないと思うのです。
あくまでも患者さんと医者側は対等。
そのことを思えば、僕は患者さんのことを“患者様”と呼ぶには違和感があります。決して、患者さんをないがしろにしているわけではなく、患者さんと同じ目線で対応しようとは思っています。けれども、同じ立場であるということを考えると、どうも“患者様”という呼び方になじめないのです。

医療機関において何が何でも“患者様”と呼ばないといけないという雰囲気には以前から如何なものかと感じていた、歯医者そうさん。今回の新聞記事を見て、僕のような考えを持っている人が少なからずいるのだなあということを改めて感じた次第です。


 < 前日  表紙  翌日 >







そうさん メールはこちらから 掲示板

My追加