仕事柄、つい人様の口元に視線が行ってしまうのですが、最近よくみかけるのが歯が欠けたまま放置している人です。しかも、放置している人はただの人ではありません。歯医者なのです。
最近、地元歯科医師会関係の先生や僕の出身歯科大学の先輩の先生数人と会う機会があったのですが、偶然とは言えないくらい、全員の上の前歯が欠けていたのです。あまりにも目立ち過ぎて、歯医者でなくてもわかってしまうぐらいでした。
“こんなに派手に歯が欠けたままで恥ずかしくないのだろうか?”
僕は某先生にどうして前歯が欠けたまま放置しているのか尋ねてみました。
「歯が悪いのはわかっているのだけどね。普段の仕事はマスクをしているから患者さんにはわからないしなあ・・・。」
歯医者の不養生そのものです。
意外に思われるかもしれませんが、歯医者は自分自身の歯が悪かった場合、かかりつけの歯医者がいる確率は意外と少ないのです。 その理由としては、歯医者は歯の治療のことがわかっていること、自分の歯が悪いことを同業者である他の歯医者に知られたくないという変なプライド、自分の歯の健康にルーズなことなどが考えられますが、日頃患者さんに歯の健康の大切さを説いている歯医者であるならば、自らの歯の健康には気を遣わなくてはならない立場。それならば、自分の歯が悪い場合には、患者さんと同様かかりつけの歯医者を持つべきだと思うのですが、そうではない現実。 歯医者の中には、自分の歯を自分で治療する歯医者もいるようですが、僕はできません。ちなみに僕のかかりつけ歯医者は一応親父なのですが、親父も高齢になってきたため、最近では、同じ歯医者である叔父に診てもらう機会が増えてきました。
歯が欠けているということで思い出したことがあります。 ある歯医者が心筋梗塞で某大学病院に入院した時のことです。その歯医者の先生が入院していた病室に教授が部下である教室員を引き連れて大挙してやってきました。教授回診というやつです。教授は、担当医から説明を聞き、カルテを見ていたそうですが、患者である歯医者の先生がヘビースモーカーであることを知り、語調を強めて言ったそうです。
「○○さん、タバコを止められなかったから心筋梗塞になったということを理解していますか?あなた歯医者でしょ!歯医者でありながらタバコを止めることもできんのですか。こんなことではあなたの患者にも示しがつきませんわな。」
まるで歯医者を目の敵にするかのようにボロクソに言っていた教授。 その教授に対して、歯医者は一言 「あんたもその前歯、早く治さんと周囲の笑いものになりまっせ!」
教室員からは思わず“クスッ”という笑い声が漏れ聞こえたのだとか。その教授は以前から上の前歯が欠けていたそうですが、歯医者に通わずそのまま放置していたのだとか。教室員は教授の前歯のことを気がついてはいたのですが、この教授はかなり個性的なワンマン教授だったそうで、教室員は口ごたえすることができないような雰囲気だったとのこと。そのため、教室員は誰一人として教授の折れた前歯のことを面と向かって指摘することができなかったそうなのです。 そんな中、一入院患者である歯医者からモロに前歯のことを指摘され、嫌味を言われた教授。怒り心頭だったそうです。
狭心症の歯医者も前歯が欠けた歯医者もどっちもどっちです。医者の不養生という点ではお互い様といったところだったかもしれません。実に情けなく、患者さんに対し、示しがつかない話です。
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