歯医者さんの一服
歯医者さんの一服日記

2007年04月23日(月) 歯で飴玉やキャンディーを噛まないで!

「歯が欠けてしまったので何とかして欲しい!」

このようなことを訴え来院されたのは50歳代後半の女性の患者Yさんでした。
口の中を診てみると、左上の第一小臼歯と呼ばれる歯が真っ二つに割れておりました。
“一体これはどうしたことがきっかけで割れたのだろうか?”
疑問に感じた僕はYさんに尋ねてみました。Yさん曰く

「飴玉を噛んでおりましたら突然“ボリッ”という音と共に歯が欠けたのです。」

更に詳しく尋ねてみました。Yさんのお宅にお孫さんが遊びに来たとのこと。お孫さんがかわいかったらしく何かおやつをあげようとしたところ、手元に飴玉があったのだとか。大き目の飴玉だったようでそのままお孫さんにあげるに少し大きすぎる。そう考えたYさんは飴玉を歯で割ってお孫さんにあげようとしたのだそうです。
何でもこれまで何度も飴玉を歯で割っていたそうで、問題なく割っていたのだとか。今回も何も考えず、いつもと同じように何ともなく飴玉を歯で割ろうとしたところ、飴玉ではなく歯が欠けてしまったそうです。

飴玉やキャンディーといったお菓子類は基本的には口の中で舐めながら食べるものです。当たり前のことといえばそこまでですが、少しでも早く食べてしまいたいと思う人は、舐めることを止め、上下の歯で噛んで食べてしまうことは多くの人が経験したことがあることでしょう。人間というもの、口の中に何か物を入れると本能的に噛んでしまいたい欲望にかられるものなのかもしれませんが、歯医者の立場から言わせてもらうと、この行為、決して勧められる行為ではありません。是非とも避けて頂きたい行為です。

以前にもこちらの日記に書いたことではあるのですが、人間の歯というものはかなり硬いものです。特に、歯の表層のエナメル質と呼ばれる組織は成分のほとんどが無機質でできています。歯医者で歯を削る際、金属製のバーというものを高速回転させて削るわけですが、バーには人工のダイヤモンドの粉末がまぶしてあります。その訳は、ダイヤモンドぐらいの硬さのものを高速回転しないと歯が削れないからです。
歯が非常に硬い組織である故、食べ物のほとんどを噛み切ることができるわけですが、その一方で硬さゆえの弱点もあります。それは脆いことです。

皆さんには是非イメージして欲しいのですが、石どうしを力一杯ぶつけ合えばどうなるでしょうか?石の種類にもよりますが、概ね石というのは非常に硬いものです。その硬い石どうしをぶつけ合うと、何度かぶつけ合っているうちに石が割れてしまうことが容易に想像できるのではないでしょうか。
歯も同様です。ダイヤモンド並の硬さの表面を持っている歯でも必要以上に硬い物を噛んでいるうちに表面にヒビが入り、ある瞬間に割れてしまうリスクがあるのです。
しかも、歯にも加齢現象があります。年齢を重ねるとともに歯は硬くなってくるものですが、その一方脆さも大きくなってくるものなのです。

今回、Yさんにとって不幸だったことは、割れた歯が以前に神経の処置を行っていた歯であったことです。
神経、専門的には歯髄と呼ばれていますが、歯髄には多数の微小な栄養を送り込む血管が入り込んでいます。これら血管の血液を通して、歯も新陳代謝が行われているわけです。ところが、むし歯が大きくなり歯髄にまで達した際、痛みを取り除くには歯髄を取り除かないといけません。歯髄を取り除いた後は、がっターパーチャと呼ばれるゴムを歯髄の代わりに入れ、詰め物を詰めたり、被せ歯を被せたりします。
このような歯髄を取り除いた歯は、歯髄のある歯に比べどうしても歯が脆くなる傾向にあります。歯髄を通して新陳代謝が行われないためです。
極端な例えかもしれませんが、歯髄を取り除いた歯は枯れ葉のような状態に似ています。通常の緑の葉であれば常に栄養が送り込まれ緑の色を呈しているものですが、枯れ葉であれば既に栄養の供給が途絶えている状態。いつ何時強風が吹けば吹き飛んでしまうかもしれない状態です。歯髄の無い歯はそんな枯れ葉に近い状態とも言えるのです。

以上のような悪条件が重なったこと、そして、Yさん自身の歯に対する過信から、Yさんの歯は真っ二つに割れてしまったのです。その結果、僕はYさんの割れた歯を抜歯せざるをえませんでした。

かつて僕は日記の中で、氷を口の中で割らないで欲しいと書きましたが、今回のような飴玉、キャンディーのような硬いお菓子類も同様です。決して自分の歯で噛み砕かないようにして欲しいと思います。人間の歯は道具ではないのです。同じ割るなら、口の外で包丁などで砕いて細かくしたものをゆっくりと口の中で舐めながら賞味して欲しいと思います。


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