歯医者さんの一服
歯医者さんの一服日記

2007年04月17日(火) 理想的な死に方とは?

人間は誰しも人生の最期が来るものですが、人生を終えるにあたりどのような亡くなり方をするものでしょう?
昨夜、遅くまで地元歯科医師会で会合があったのですが、先輩の先生の知人が立て続けに亡くなったという話からどのような死に方があるものか、話題にあがりました。

死の病で亡くなるような場合を想定すると・・・
心筋梗塞であれば、心臓の冠状動脈が詰まり、心筋が壊死し、心臓が停止するのが心筋梗塞であるわけですが、心臓に強烈な激痛が襲い、苦しみながら絶命するとのこと。
脳梗塞であればどうでしょう。こちらも脳内の血管が詰まることにより死に至る病気ではあるのですが、突然意識を失い絶命に至るとのこと。
肺炎であれば、息が苦しく呼吸困難な状態というのはもだえ苦しむような状態で死に至るといいます。
癌であれば、どうでしょうか?癌の症状は様々ですが、往々にして痛みを伴う場合が多いとのこと。そのため、ホスピスなどでは癌による疼痛を緩和するためにモルヒネが投与され、痛みを緩和するような処置を取ることが多いようです。

病気ではなく、不慮の事故で死ぬ場合、いろんな亡くなり方があるかもしれませんが、某先生曰く

「自分が関わっていた仕事や事業、家庭のことなど、今まで自分が関係していたことの引継ぎがうまくなされないまま、そのようなことを考える余裕もなくこの世を去るというのも如何なものかなあ?決して幸せな死に方とは言えないよ。」

ちなみに、自殺のことは誰も取り上げませんでした。理想的な死に方とは程遠いものであるという共通認識があったからだと思われました。

どんな死に方にせよ、理想的な死に方などは思い浮かびませんでした。話に参加していた先生同士、意見が合ったのは、人間というものは、いつまでもこの世の中にしがみついていたいものだということでした。

そんな話をしていると、後輩の先生がこんなことを言ったのです。

「どんな病気になるか予想はつきませんが、同じ死ぬなら病院ではなく自宅の布団の上で死にたいものですね。」

僕は病院の研修医でした。患者さんの中には病院で息を引き取り、病院の裏口から出て行かれる方を何人も目にしました。医者は精一杯努力をしているはずですが、力及ばず病院内で息を引き取る。これは仕方のないことではあるのですが、同じ亡くなるなら病院ではなく、自分のなじみのある家で亡くなる死に方をしたいという気持ちは僕もよく理解できました。
人生の最期に自分がいるのは自宅の布団の上という気持ち。

先日、数年ぶりにYさんという患者さんが来院しました。

「先生、ご無沙汰しております。本当はもっと早く来たかったのですが・・・」と言いながら入室されたYさん。

久しぶりに見たYさんの口の中は、以前よりも歯の状態が芳しくありませんでした。以前であれば定期検診を積極的に受けられていたYさんだったのですが、ここ3年ほどは定期検診の案内にも音沙汰なかったのです。そんなYさんが久しぶりに来院されたのです。
Yさんの口の中の状態を考えると、何回か通院が必要な歯の状況でした。そのことをYさんに伝えると、Yさんは突然言われました。

「実は昨年、先生にも診てもらっていた母が亡くなりました。」

Yさんの話によれば、Yさんのお母さんは数年前から癌を患っていたそうですが、入退院を繰り返していたとのこと。僕も退院時にYさんのお母さんの入れ歯を調整したことがあるのですが、歩行も付き添いがないとできないくらい弱っておられていました。そんなYさんのお母さんが病が急に進行したのが、昨年の夏ごろだったとのこと。当初、病院で入院していたそうですが、Yさんのお母さんの強い希望があり、担当医が往診するという約束の下、自宅療養をすることを選択されたのだそうです。

病状は一進一退を繰り返していたようですが、病状は落ち着いていたそうです。そんな昨年の秋のある朝のこと。Yさんは、お母さんが安らかに眠っていると思い、外出をしたとのこと。ところが、昼頃帰宅した時、Yさんが目にしたのは、お母さんの体が寒くなっていた姿だったといいます。

「母は数年間、癌の闘病生活をしていましたが、最期は眠るようにして逝きました。何も苦しまず、自宅の布団の上で亡くなった母は幸せな死に方をしたのではないかと思います。」

きっと、Yさんのお母さんは生前の行いがよかったのでしょう。苦しまずして眠るようにして自宅の部屋の布団の上で亡くなられたのだとか。

理想的な死に方というのはこのような死に方なのかもしれないと感じた、歯医者そうさんでした。


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