2007年04月05日(木) |
君は死神みたいな奴だな |
昨夜は夜遅くまで地元歯科医師会での会合がありました。例によって会合の後、何人かの先生と話をしていたのですが、その中の一人、地元警察歯科医のH先生が興味深い話をしてくれました。
「先日、警察歯科医の仕事で地元警察署へ出向くと、顔なじみの刑事と出会ったんだけど、その時に言われたんだよ。『君は死神みたいな奴だな』ってね。」 「『死神みたいな奴』とは縁起でもないですね。それは一体どんな意味で言われたのでしょう?」 「警察歯科医の仕事は身元不明遺体を検死する時に呼び出しがかかり、出向くわけだよ。いつもご遺体を相手にする仕事であるわけ。少なくとも警察署内で生きた人間を相手に仕事をするわけではない。そんな俺の仕事ぶりを見て、顔なじみの刑事は俺のことを冗談で『死神みたいな奴』と言ったんだよ。決して気持ちの良い冗談ではないけども、顔なじみの刑事としてはそれだけ俺のことを同じ仕事をする同士といった感じで考えてくれているようなんだな。」 「先生は、警察歯科医になられて何年になるのですか?」 「もう7年になるかな。警察歯科医を引き継いだ直後は、仕事の要領もわからずいろいろと警察には迷惑をかけたよ。警察の関係者も俺が警察歯科医だからそれなりに丁寧には対処してくれたんだけど、実際のところはよそ者扱いしているようなところがあった。」
「けれども、継続は力なりとはよく言ったものだよ。長年警察歯科医として仕事をしていると、それなりに俺の仕事ぶりを認めてくれるようになったんだ。その評価の一つが『死神みたいな奴』だと思うよ。変な冗談だけども、刑事からすればそれくらい自分たちと同じ土俵の上で仕事をしてくれているという一種の愛情表現みたいなんだな。」 「警察という組織は結構特殊な組織なのですか?」 「警察というのは国民の安全を守るための公僕としての役割がある。それは警察関係者の誰もが持っている意識なのだけども、君も知っているとは思うけど、警察って二重構造なんだ。キャリア層と現場層とでも言うべきかな。キャリア層はエリート官僚だよ。彼らは一定の期間が経つといろんな場所へ転勤していく立場。じっと同じ場所で仕事をし続けるわけではない。それに比べて現場層とでもいう警察官や刑事というのは長年同じ警察署で働き続ける立場。そうなると思う?」
「仲間意識が強くなるんだよな。お互いの仲間意識が強くなることで、犯罪に対処する力が相当強くなるらしい。ところが、これには大きな欠点があるんだよ。」 「光と影の部分があるということですか?」 「そうなんだ。影の部分があるんだな。それは、自分たちの部署と関係の無いことには積極的に関わりたくないという意識が強いことだよ。」 「ある事件が起こったり、市民から苦情、相談事があったとしても、“自分たちには関係ない、関わりあいたくない”という気持ちがおこり、これらにそっけない態度しか示さないことが多いんだよ。これまでストーカーやいじめ問題などで警察に相談にいっても相手にされずに、事態が悪化したということで社会問題になったことがいくつもあったよな。この問題の背景には、こういった仲間意識の強さが裏目に出ている面がある。自分たちの範疇ではないところには関わりあいたくないという気持ちだね。」
「これは大きな問題じゃないですか?」 「俺もそう思うよ。ただ、この体質を変えようとしてもなかなか変えられるものじゃないんだよ。何だかんだいっても警察の現場の仕事は大変な苦労を伴うからね。現場の苦労を知らない奴に頭ごなしに言われると、妙に反発してしまうのが警察の現場の人間なんだよ。」 「一見で相談にいったら見向きもせず、冷たくあしらわれる可能性がある一方、現場を直に知っている者からの相談には素早く対応するものなんだ。かつて、地元歯科医師会関係の人が堅気では無い人とのトラブルに巻き込まれた時、俺に相談にのってきたんだ。俺が知り合いの刑事に相談したら、『それは大変だな』と言うや否やすばやく動いてくれ、解決に導いてくれたんだ。正直言ってびっくりしたよ。」
「警察っていろいろと批判があるんだけど、警察の体質を変えようするよりも、彼らの事情を理解し、日頃から協力することで彼らの力を引き出してやるというように考えないとうまくいかないのじゃないかな。本当はこんなことではいけないんだけど、長年培われてきた警察の体質というものは直ぐに変わるというものではない。いろんな警察の不祥事があって以来、表面上、警察の対応はソフトになってきたというけども、本質は変わっていないよ。俺は長年警察歯科医をやっているけど、最近になって警察の体質というものを心の底から理解してきたような気がするよ。」
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