歯医者さんの一服
歯医者さんの一服日記

2007年04月03日(火) 親知らずは若いうちに抜歯すべき

先日、40歳代の患者さんが下の親知らずが痛いということで来院されました。僕が診たところ、親知らずに大きな穴が開いており、歯髄(神経のことです)にまでむし歯が達していることがわかりました。下の親知らずに対してかみ合うべき上の親知らずはありませんでした。患者さんに確認したところ、以前抜歯した記憶があるとのこと。

このような場合、親知らずは抜歯するのが普通です。親知らずよりも手前にある歯の場合であれば歯髄を処置し、歯を残すことを第一に考えるわけですが、親知らずの場合、歯髄の処置を行うにも器具や歯医者の手が入りにくく、処置が難しいこと。そして、何よりもむし歯になったことを考えると、今後患者さんがこの歯をむし歯にさせる確率が高いことが考え、抜歯するのです。

そこで、いざ親知らずを抜歯しようとしたのですが、一苦労でした。事前のレントゲン写真では下の図のように写っていました。





この絵は親知らずの側面から見た図でもあります。

一見すると、親知らずの根っこは一つで、真っ直ぐ。抜歯は直ぐにできるだろうと高をくくっていたのです。ところが、実際の親知らずは下のような感じでした。





この絵は抜歯した親知らずを側面ではなく正面から見た図なのですが、根っこの先が釣り針のように曲がっているのがよくわかると思います。レントゲン写真では真っ直ぐでくせのない根っこに見えていたのですが、実際の親知らずは根っこの先が釣り針のように曲がっていたのです。

歯は顎の骨の中に根っこの形にそって固定されています。抜歯する場合、根っこが真っ直ぐであれば、そのまま引っ張ったり、揺さぶってやれば歯は顎の骨から脱臼し、抜くことができるのですが、根っこの先が肥大していたり、曲がっていたりすると、抜歯の際、根っこの先が骨に当たり、抜歯することができないのです。
このような場合、どうすれば抜歯できるのでしょう?根っこを割ったり削ったりするか、周囲の骨を削って抜歯するしか方法がありません。非常に厄介です。

なぜこのようなことを書いたかといいますと、年を重ねれば重ねるほど根っこの先は肥大したり、曲がったりする確率が高くなるからです。特に、親知らずは口の中の一番奥に位置しています。いざ抜歯が必要となった場合、高齢であればあるほど抜歯が難しくなります。

実は、歯は顎の骨と直接固定されているわけではありません。歯根膜と呼ばれる線維が介在しています。この歯根膜は非常に重要な働きがあります。物を咬む際、歯根膜がなければ咬んだ時の振動は直接骨に伝わり、顔だけでなく頭全体が響く感じがあるのです。歯根膜が介在しているため、物を咬んだ時の衝撃が緩和され、そのため、食事をしてもあまり顔や頭には響かないようになっているのです。
そんな歯根膜ですが、年を重ねれば重ねるほど段々と無くなってきます。萎縮してくるのです。どうしてこのようになるのかはわかっていませんが、一種のエイジング、老化現象の一つであるようです。そして、歯は骨と癒着するようになるのです。

こうなると、抜歯は非常に厄介です。歯根膜があってこそ、歯は骨から脱臼しやすく、分離して抜歯しやすいのですが、骨と癒着した歯を抜歯する場合、癒着した骨ごと抜歯しないと抜歯できないのです。高齢者の抜歯の場合、こういった癒着した歯が時折あるのです。
僕自身、80歳代後半の患者さんで骨に埋まった親知らずを抜歯した経験があるのですが、この時は非常に難儀しました。骨に埋まっていた親知らずの周囲の大半が骨と癒着していたからです。仕方なく僕は親知らずの周囲の骨を取り除き、抜歯したのですが、高齢ということもあり、傷の治りに時間がかかったものです。

このようなことを考えると、親知らずはできるだけ年齢が若いうちに抜歯すべき歯であるように思います。

そういう僕も上の親知らずが2本そのまま残っています。早く抜歯しないとなあと思いながら放置しております。今年中には抜歯してしまわないと・・・。


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