歯医者さんの一服
歯医者さんの一服日記

2007年03月21日(水) パチンコだけにして欲しい出血大サービス

今日は春分の日。昼と夜が同じ時間帯の日であります。いつも春分の日を迎えると、僕は長い冬が終わり、暖かい春がやってきたなあと感じます。昔から、“暑さ寒さも彼岸まで”という言葉があるように、春分の日は季節の区切りという感覚が日本人にはあるようです。僕もそんな日本人の一人、小市民の一人なのかなあと思う、今日この頃。

さて、話は変わって・・・
患者さんの歯を抜歯することは、普段の診療ではしょっちゅうあることです。僕もほとんど毎日、どなたかの患者さんの歯を抜歯しています。抜歯する際、僕が必ず注意していることがいくつかあります。その一つが止血です。僕は抜歯後、自分の目で止血が確認できるまでは治療を終えない主義です。これは当たり前のことだと思っています。なぜなら、いくら患者さんの歯が悪く抜歯せざるをえなかったとしても、抜歯したのは歯医者です。抜歯するならきちんと血が止まるまで面倒をみるのが歯医者の務めであり、責任であり、義務だと思います。

さて、人間の体は出血している部位を圧迫すれば止血できるようになっているもの。何らかの病気や薬を服用している人の中には止血しにくい人もいますが、健康な人は出血している場所を圧迫すれば血の流れが止まり、血が固まり、止血されるものなのです。
これは抜歯においても当てはまります。抜歯は出血が伴う場合がほとんどですが、出血している場所を圧迫すれば血は止まるのです。抜歯を経験した人ならばよくわかると思いますが、抜歯した後、抜歯した部位をガーゼで強く噛んでおくよう歯医者から指示されますが、これは圧迫すれば止血することを利用した止血方法なのです。

閑話休題、鼻の手術をされた方は経験あるでしょうが、鼻の粘膜は出血しやすい特徴があります。この出血を止めるには鼻の穴からガーゼを押し込むのですが、”これだけの量のガーゼが入るのか!”と言いたくなるくらいのガーゼが押し込まれるのです。鼻の中は空洞が多いため、相当多い量のガーゼを押し込まないと空洞を圧迫して埋まることができないためなのですが、その量は尋常の量ではありません。“

話を元に戻しまして、僕も抜歯した際には患者さんにガーゼを数分程度ガーゼを強く噛んでもらいますが、より止血を完全にするため、抜歯した部位の歯肉を縫合糸で強く縫合します。抜歯した部位を圧迫するのと同じ効果が縫合にあるからです。場合によっては、止血剤を抜歯した部位に入れ、縫合し、強く噛んでもらう。念には念を入れて止血するように努めています。

ところで、先日、そんな念には念を入れての止血方法でも止血困難な場面に遭遇しました。
歯がぐらぐらで痛くて咬めないということで来院された患者さんがいました。僕が診たところ、歯周病がかなり進行し、今にも抜けそうなぐらいグラグラの状態でした。レントゲン写真でも歯の周囲に骨が全くない状態が写し出されていました。このような場合、まずは抜歯ということで、僕はいつものように麻酔の注射をした後、抜歯を行ったのです。そして、いつもと同じように抜歯した周囲を糸で縫合し、止血剤を抜歯した部位に填入し、ガーゼで強く噛んでもらったのです。

それから10分後、止血確認をしたところ、抜歯したところからは血がにじみ出ていたのです。これはおかしい!そう感じた僕は縫合していた糸を抜糸し、再度抜歯したところを掻爬し、糸で縫合をしたのですが、それでも血は止まりません。
患者さんが申告していなかった病気があるのか?それとも、ワーファリンのような血液凝固をしにくくするような薬を服用しているのか?患者さんに確認しなおしたところ、どうもその可能性はないとのこと。
もう一度、抜歯した部位から出る血をガーゼでふき取りながら、出血している源を確認したところ、抜歯した一部に不良肉芽と呼ばれる組織が残っていることがわかりました。
一見すると何かの脂肪組織のような不良肉芽。歯周病などが進行すると、歯の周囲の骨が溶け、周囲の歯肉がもろもろとなるものなのですが、このもろもろが不良肉芽の正体です。不良肉芽は非常に出血しやすく、取り残すといつまでも血が出てくる性質があります。抜歯の際、不良肉芽をきちんと取り除くことが鉄則なのですが、どうやら今回は不良肉芽の取り残しが一部あったようなのです。不良肉芽を掻爬し、再度止血剤を入れ、念入りに縫合。そして、ガーゼで強く圧迫して噛んでもらうこと10分。
結局のところ、何とか止血はできましたが、気が付くと抜歯してから40分以上の時間が過ぎていました。

思わぬ出血大サービスはパチンコだけにして欲しいと改めて感じた、歯医者そうさんでした。


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