歯医者さんの一服
歯医者さんの一服日記

2007年03月13日(火) 先見性とは博打みたいなもの

僕はいつも親父と一緒に仕事をしているのですが、親父が診る患者さんにはある特徴があります。それは患者層が高齢であることです。親父が診ている患者さんは長期にわたり親父を慕って、親父をかかりつけ歯医者として信頼して来院している患者さんです。親父が年を重ねると共に患者さんも年を重ねていく。その結果、親父が診る患者さんは高齢である確率が高くなっています。
高齢であるということはそれなりの人生経験を積んだ可能性が高いということでもあります。そのような高齢の方が何気なく言われる一言には含蓄のある言葉、箴言が多いもの。高齢の親父の患者さんが話す言葉には興味深いものが多いのです。親父の隣で診療している僕も思わず聞き耳を立ててしまうこともしばしばです。

先日のことでした。
ある企業で社長を務められてきた患者Yさんが親父の診療を受けていました。その際、このようなことを言っていました。

「よく企業には将来のことを見越して行動を起こさないと未来がないということが言われるじゃないですか?あるヒット商品が当たった企業に対し、世間では“先見性がある”なんて評価を下します。その一方で、傾きかけている会社に対しては“見通しが甘い”ということを平気で言われることがあります。」
「確かにそのとおりなのですが、正直言って、この先何が起こるかなんてことは誰にも予想がつかないのですよ。一寸先は闇なのです。けれども、そういうことでは競争が激しい社会の中、企業は生き残っていけません。そのため、どの企業も将来どんな展開になるか、どんなものに興味が集まるかを必死になってリサーチするわけです。社内でプロジェクトチームを作り、その中でリサーチした結果を詳細に検討し、将来に向けての企業戦略を立てます。それでも、最終的にその成否が決まるのは運なのですね。綿密な計画の下に行動したとしても吉と出る場合もあれば凶と出る場合もある。
こんな言い方をするとおかしいかもしれませんが、先見性とは、とどのつまり、博打みたいなものなのですよ。」

“先見性とは博打みたいなもの”

僕はなるほどと感じました。
昨今の赤字企業、地方自治体の事業の失敗などのニュースをよく耳にします。当初、これら企業、地方自治体も赤字になろうとして事業を計画し、実行したわけではないはず。それなりに将来の見通しを考え、計画を練って実行に移したはず。それなのに財政破綻してしまうのはどうしてか?今となっては見通しが甘かったということは簡単なことでしょう。単に見通しが甘かっただけなのか?僕はそのことを常に疑問に感じていました。誰も好きで財政破綻してしまうようなことはしないはず。それなりの将来性を考えて事業を計画し、実行に移したはず。それを“見通しが甘かった”という言葉だけで言い切ってしまっていいのだろうかと感じていたのです。

そんな中でのYさんの一言、“先見性とは博打みたいなもの”。

僕は自分の疑問がYさんの一言で氷解したような気がしました。将来を見通す能力というものは誰でも絶対的なものではない。うまくいく場合もあるしそうでない場合もある。
もちろん、将来は過去から現在にわたる状況を熟慮し、詳細に予想するものではあるのですが、その予想が当たるかどうかは結局のところ神のみぞ知る世界。まさしく、博打なのです。

Yさんの箴言を聞き、得がたい人生勉強をさせてもらったと感じた歯医者そうさんでした。


 < 前日  表紙  翌日 >







そうさん メールはこちらから 掲示板

My追加