昨日取り上げた空き部屋になった子供部屋のその後について、何人かの方からメールや掲示板への書き込みを頂きました。どの手紙も子供が巣立ってからも子供部屋を使っているとの話。頂いたメールや書き込みを見ていると、どの方も自分たちの生活をある程度犠牲にしてでも子供のために部屋を確保していたのですね。子供に対する親心の偉大さを改めて感じました。
さて、最近、あまり歯の話を書いていないので、今日は久しぶりに歯のことを書こうと思います。
「子供の歯に突然角が生えてきているみたいですので診てください。」
そう言ってうちの歯科医院を受診したのはEさん親子。Eさんの子供さんは現在、中学校2年生。以前からうちの歯科医院に通ってきていたなじみの患者さん親子です。そんなEさんが突然、びっくりした表情で来院したのです。一体何事かと思い、詳しく話をしてみると、
「先日、息子が『僕の歯に角が出てきた』と言い出したのです。最初は『何をふざけたことを言うんだ』と相手にしていませんでした。ところが、しつこく何度も同じことを言うものですから、仕方なく息子の口の中を見たところ、下の奥の歯に角みたいなものがあるのを見つけたんです。親としてもびっくりしました。何か悪いものでもできてきたのか不安になりまして。それで先生のところを訪ねたというわけなのです。」
早速僕はEさんの子供の口の中を診てみました。Eさんが指摘していた歯は下の左右の第二小臼歯と呼ばれる歯の咬み合わせの面にありました。
角というよりも何か突起物のようなものがあり、このことをEさんは角と思っていたようです。一見した僕はEさんに言いました。
「これは悪いものでも何でもありませんよ。中心結節と呼ばれるものなのです。時々特定の歯に出現する突起物の一つなんです。」
歯の噛み合わせの面のことを咬合面というのですが、この咬合面は通常、溝と呼ばれる皺の部分と咬頭と呼ばれる高い部分から成り立っています。ところが、中には溝の中に突起物が出るようなことがあるのです。特に、小臼歯の咬合面に見られる突起を中心結節と呼びます。 中心結節はガンのような悪いものでも何でもありません。一種の歯にできるこぶのようなものと言っていいでしょう。口腔解剖学の成書によれば、中心結節の発生率は多くて3%とのこと。100人に3人くらいの割合で小臼歯の咬合面に中心結節が出現する割合です。 中心結節は歯が生えてきた頃からあるのが普通です。Eさん親子が最近になって見つけたというのは、おそらくこれまで気付かず、最近になってから中心結節の存在に気がついたというのが本当のところだと思います。
中心結節ですが、厄介なのはその位置です。咬合面のほぼ真ん中に位置しているのです。
まず、下の図は通常の下の第二小臼歯の断面図です。
それに対し、中心結節がある第二小臼歯の断面図が下の図です。 斜線を引いている部分が中心結節と呼ばれる部分です。
ところで、歯には内部に俗に神経と呼ばれる歯髄があります。血管や神経、免疫細胞等様々なものが集まる複合体の組織です。 上の図でわかるように中心結節は咬合面にあります。 咬合面というのは常に上下の歯が接触する可能性が高いところです。そのまま放置しておくと中心結節が折れてしまう可能性があります。単に折れてしまうだけならまだいいのですが、更に厄介なことには中心結節の内部には歯髄、所謂神経がある場合が多いのです。 下の図のような感じです。
もし、中心結節が折れると同時に中の歯髄が露出。歯痛を生じたり、無症状の場合、歯髄が壊死、壊疽を起こし、根っこの先に膿がたまり、歯肉が腫れるといったことが起こりえるのです。そうなると、歯髄の処置をしないといけなくなります。
このようなことにならないよう、咬み合わせを確認しながら、中心結節は補強をすることがあります。中心結節が折れないように周囲を人工材料を充填し、補強をするのですが、実際のところ、咬合面という位置の関係から、補強した材料が磨り減り、無くなってしまう可能性が多々あります。
通常は、中心結節を持っている患者さんは、定期的に中心結節を検診し、経過を見ていくことが必要となります。 Eさんの子供さんの場合も、レントゲン検査や歯髄が生きているかどうかを調べる検査などを行い、現在のところ問題がないことを確認しました。このままむし歯や歯周病のチェックと同時に中心結節の検査も行うということになりました。
それにしても、神様は何人かの人間の歯に角を生えさせるようなことを仕向けたものです。人間へのちょっとした悪戯かもしれませんが、角が生えた方や歯医者にとって、中心結節は厄介な角だと言えるでしょうね。
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