2007年02月28日(水) |
憧れの人が家にやって来る! |
先日PTAの仕事で下のチビが通う幼稚園へ出向いた時のことでした。園長先生と話をし、家に戻ろうとするとある人が僕に声を掛けてきました。ある人とは用務員のSさん。 Sさんは幼稚園での保育には直接携わりませんが、裏方としてさまざまな幼稚園の活動を手伝っている方です。いつも人懐っこい顔で笑みを浮かべているSさんは園児に人気があり、Sさんの周囲に絶えず多くの園児たちが集っている姿がみられます。僕の下のチビもそんな園児の一人で、Sさんになついているようです。僕自身、この1年間、幼稚園にしばしば通い、様々な行事に参加してきたことからSさんとも顔なじみになっていました。
「会長、実は折り入って話があるのですがよろしいでしょうか?」
いつものにこやかな表情とは異なり、神妙な顔つきで僕に語りかけるSさん。一体何事だろうと思い話を聞いてみると、僕に相談事があるというのです。人生の先輩でもあるSさんが僕に相談するとは一体何だろう?僕も思わず身構えてしまいました。Sさん曰く
「歯医者さんの治療のことで教えて欲しいことがあるのです。」
詳しい話を書くことはできないのですが、Sさんは現在ある歯科医院で歯の治療を受けているとのこと。ある治療に関し疑問に感じたそうで、何度も担当の先生に質問をするものの、納得することができず悩んでいたそうです。幼稚園で仕事をしていて僕の姿を見たSさんは僕が歯医者であることを思い出し、相談にのって欲しいということだったのです。
Sさんが僕に求めていたのは、まさしくセカンドオピニオンでした。 今の時代、患者さんの権利意識の高まりから、患者さん自身、自分が受ける医療について、主治医や担当医以外の専門家に意見を求めるべきだと風潮が高まってきています。心情的に主治医や担当医に直接尋ねにくい、つい感情的になったり、角が立つ。これまでの信頼関係を損なう可能性もある。そういった場合、これまで全く自分と関係ない、専門家に意見を求めることがセカンドオピニオンです。 セカンドオピニオンは、患者さんにとってもメリットは大きいと思います。一昔前のように医療従事者と患者さんの関係は“依らしむべし、知らしむべからず”といった時代ではありません。医者が自分の権威をちらつかせるような時代ではありません。患者さん側も、医者に頼りきりになるのではなく、自分の体は自分で守る。そのためには必要な情報は自らが動き、情報を得ることが必要とされる時代です。昨今のインターネットの普及により誰でもいつでも医療情報が得られるようになっていますが、更なる詳細な、個別の情報は専門家でないとわからないところも多々あります。 セカンドオピニオンを求める患者さんの声はこれからもますます強くなるでしょうし、僕もセカンドオピニオンを求められた場合には、自分なりに診査、診断し、治療方針を伝えるようにしているつもりです。
話を元に戻しまして、Sさんのセカンドオピニオンを求めることに僕は何の異論もありませんでした。ただし、実際に僕のセカンドオピニオンを述べるには、Sさんにうちの歯科医院に来てもらい、種々の検査を受けてもらってからでないとできません。そのことをSさんに伝えると、Sさんは少しでも早くうちの歯科医院へ足を運びたいということでした。
ということで、Sさんがうちの歯科医院に来る日が決まりました。このことをうちの下のチビに言うと、下のチビは小躍りして喜びました。
誰しも幼稚園や小学生の頃、担任の先生が生徒たちの家庭を訪ね、保護者と出会い話をする家庭訪問を経験したことがあるはずです。僕も家庭訪問を何度か経験しましたが、いつもは学校で他の生徒たちと一緒に過ごしている先生が、自分の家をわざわざ訪問し、自分の目の前にいる。他の生徒たちの姿はなく、自分と親だけが先生と相対している。結構期待と不安で心が一杯だったのではないかと思うのです。 下のチビの場合もそれに似たような心境だったことでしょう。しかも、担任の先生ではなく下のチビを含めた園児に人気のあるSさんです。普段は多くの友達と一緒にSさんと集っていますが、Sさんがうちの歯科医院へやってくるとなると、自分がSさんを独り占めできる。憧れのSさんがやって来る!そんなドキドキワクワクな気持ちが下のチビからはにじみ出ていました。
果たして、Sさんはうちの歯科医院へやってきました。僕は下のチビと約束をしていました。Sさんが歯科医院へ来院した時には必ず自宅へ連絡すると。僕は下のチビに連絡をしてやりました。
「Sさんがこれから歯の治療をするよ。」
僕はSさんの口の中を調べ、いくつかの検査を行ってから、僕なりの考えを伝えました。途中からは親父も話の輪に加わり、親父の意見もSさんに伝えました。Sさんはいくつかの質問をしながらも僕や親父の話に熱心に耳を傾けていました。 Sさんの診療も終わりに近づいた時のことでした。何気なく診療室と待合室を分けるドアの方を見たところ、ドアが少し開いているのに気がつきました。その隙間には下のチビが僕やSさんの方を覗いている姿が見えました。下のチビはSさんが診療を終えるのを今か今かと待っていたのです。
診療が終わり、Sさんが待合室へ出るとうれしそうにはしゃぐ下のチビの声と 「お父さんに口の中を診てもらったよ」 と言うSさんの声が聴こえてきました。
二人の声に思わず微笑んでしまった歯医者そうさんでした。
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